空手パワハラ騒動、現場を目撃したコーチが証言 「竹刀の先端で突いてはいない」
前代未聞の騒動
空手女子組手61キロ超級で東京五輪に出場予定の植草歩選手(28)=JAL=がパワハラを告発した問題。香川政夫・選手強化委員長(65)は責任を取る形で、全日本空手道連盟(全空連)に辞意を伝えた。パワハラ騒動の現場を目撃したコーチの証言を紹介する。
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笑顔の似合う愛くるしいルックスに長く伸ばした茶髪、色鮮やかなネイルアート、さらには、大好きなディズニーランドを満喫するオフの様子まで――。
SNSに投稿された写真は、植草が空手の五輪代表選手であることを忘れさせる。その活躍ぶりはスポーツ番組だけでなく、「情熱大陸」でも取り上げられ、愛称は“空手界のきゃりーぱみゅぱみゅ”。しかも、彼女は実力も折り紙付きである。
2015年から18年まで全日本選手権を4連覇し、16年には世界選手権で優勝も果たした。現在も世界ランキング3位に名を連ね、空手女子組手61キロ超級で出場予定の東京五輪でも、金メダル獲得が期待される。
だが、そんな彼女を巡って、空手界は目下、前代未聞の騒動に揺れている。
事の発端は3月25日。
新聞各紙には〈植草選手がパワハラ訴え〉〈植草「竹刀で顔面突かれた」恩師・香川氏のパワハラで負傷〉といった見出しが躍った。
香川氏は帝京大学の空手道部で師範を務めており、同大出身の植草を10代から育て上げた恩師。植草はつい最近まで、帝京大の道場を練習拠点のひとつにして香川氏の指導を仰いでいた。現在、香川氏は全空連から職務を一時的に停止されたと報じられている。
全空連の理事は驚きを隠せない。
「香川さんは名門空手道部を率いる日本でも指折りの指導者。植草とは理想的な師弟関係に見えていたので、告発は寝耳に水でした」
植草は、五輪開幕まで4カ月を切ったこのタイミングで、JOCの相談窓口に駆け込み、大学入学以来、10年以上にわたって指導を受けてきた師匠をパワハラで告発したことになる。
ブログで心情を吐露
先の新聞報道から3日後、植草はブログを更新し、胸の内を吐露した。なかでも、最も詳細に説明しているのは「竹刀暴行事件」だ。香川氏は、昨年12月20日頃から竹刀を用いた稽古を行うようになったという。
〈この稽古は、(香川)師範が、選手に対して竹刀を突きや蹴りに見立て、振り回したり、突いたりする一方で、選手はこれをかわしながら、蹴りや突きで反撃させる練習です〉
そして、今年1月27日に“事件”が起きる。
〈師範が、私の顔面をめがけて竹刀の先端で突き、これが私の左目、そしてまさにプレートが入っていた箇所を直撃したのです〉〈私は、あまりの激痛に、その場で眼を押さえて動けなくなりました〉
彼女は15年に〈左眼内壁骨折〉で手術を受けており、〈左眼付近には現在でもプレートが入って〉いるという。そこを竹刀で突かれたとすれば、たしかに危険な行為に違いない。翌日以降に彼女が精密検査を受け、「左眼球打撲傷」と診断されたことも明かされている。
このブログはワイドショーでも大きく取り上げられ、コメンテーターは口々に「到底、愛のムチとは言えない」「彼女が声を上げたのは勇気ある行動」「空手道は礼儀や人格形成を重んじるべきなのにこんなことが起きて残念」と指摘した。
ブログの内容を信じれば、同情的な声が寄せられるのは当然だろう。だが、本誌(「週刊新潮」)が取材を進めるうち、彼女の主張とは異なる証言が次々に飛び出してきたのだ。
現場を目撃したコーチの証言
「私も植草のブログに目を通しましたが、正確さを欠く内容だと思います。香川師範が練習で“顔面をめがけて竹刀の先端で突く”ことはありませんでした」
本誌の直撃に重い口を開いたのは、帝京大空手道部でコーチを務め、植草の兄弟子に当たる男性である。
とはいえ、植草が怪我を負ったのは事実。彼女が告発した1月27日の“事件”はどのようにして起きたのか。現場を目撃した男性コーチが打ち明ける。
「あの時、香川師範が竹刀を上から振り下ろしたところ、植草はボクシングのダッキングのように前屈みになって避けようとしました。その後、師範の懐に入ろうとして、竹刀に突っ込む格好になってしまったのです。植草は“イタッ”と言ってうずくまりました。師範は“すまん!”と言いながら心配そうに植草の顔を覗き込んでいた。すぐに僕を呼び寄せて“ちょっと植草を見たってくれ”と。僕が駆けつけて“まぶたが赤いけど目に当たった?”と尋ねたら、“大丈夫です。目には当たってません”と答えていました」
その後、炊事場で目を洗うよう促された植草が道場に戻ると、香川氏は「すまなかった。大丈夫か?」と改めて声を掛けたそうだ。
「植草は“以前に眼底骨折をしているので病院に行きたい”と話し、翌日に病院で診察を受けています。その結果、“特に異常はなかった”との報告があって、30日から練習にも復帰しています」(同)
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