東芝2兆円買収に乱れ飛ぶ「出来レース」説:「起死回生」一転、車谷社長は絶体絶命

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エフィッシモとの数年来の抗争劇へ、突然割って入ったCVC。車谷暢昭社長の古巣かつ藤森義明社外取締役も関係する投資ファンドの“グレーゾーン”からの参入に、市場の疑念は高まっている。

   東芝が英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズから買収提案を受けていることが明らかになった。CVCは2兆円超を投じ、東芝を非公開化する考えという。東芝が「物言う株主」との抗争で窮地に追い込まれていたこの局面でのディールには、「出来レース」との疑念も浮上している。

   東芝は「物言う株主」として知られるシンガポールの投資ファンドで筆頭株主のエフィッシモ・キャピタル・マネジメントと対立してきた。昨年7月の株主総会では、エフィッシモがガバナンス強化のため同ファンド創業者の今井陽一郎氏らを取締役にするよう求めた株主提案は否決された一方、車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)の再任案への賛成率も57.20%にとどまっていた。

 さらに、昨年の総会での議決権集計方法に問題があるとして、今年3月に開かれた臨時株主総会では、弁護士3人を選任するとのエフィッシモの提案が可決。今年の定時株主総会に向け、アクティビストの攻勢の激化が予想されるなか、「車谷社長の処遇が焦点となっていた」(東芝関係者)。窮地に追い込まれるなか、アクティビストの排除につながる非公開化は、車谷社長にとってあまりに渡りに船にみえる。

   2015年の不正会計の発覚など不祥事が相次いできた東芝は、今年1月に東証1部に復帰したばかり。その際、東芝は株主の信頼にこたえるためにコンプライアンス強化に取り組むと表明していた。その矢先の今回の買収提案に関し、「幹部は車谷社長が仕掛けたのではと疑っている」(別の東芝関係者)。

   実際、報道のタイミングは良くできていた。東芝の開示によると、東芝がCVCから初期提案を受領したのが4月6日のこと。翌7日午前2時、日本経済新聞の電子版が「英ファンド、東芝に買収提案へ 2兆円超で非公開化」と報じた。車谷社長も7日朝に自宅前で、記者団に対し「提案がきているのは事実。これから取締役会で議論する」と、報道を肯定してみせた。7日に開かれた東芝の取締役会でも「今後の東芝にとって何が最善か確認していく」ことで一致したという。各メディアは日経報道を追随した。実はその7日は、奇しくも今後の体制を議論する指名委員会が開かれる予定だった日でもある。

 買収を提案したのがCVCだったことも疑念を深める一因である。車谷社長が2018年に東芝社長に就任する直前は、CVC日本法人の会長兼共同代表だった。LIXILグループ元社長の藤森義明氏も、東芝の社外取締役であると同時にCVC日本法人の最高顧問を務めている。今回、CVCは株式の買い取り価格として、株価に3割のプレミアムを乗せた1株当たり約5000円を提示しているという。だが、ある関係者は「価格算定に(東芝が出資する国内半導体大手の)キオクシアホールディングスが含まれてないのでは。アクティビストは少なくとも1万円以上と試算しているだろう」と話す。価格が倍以上に跳ね上がれば、ファンドのうまみが損なわれるだけでなく、買収実現も難しくなる。このCVCの提示した買い取り価格も様々な憶測を呼んでいる。

   東芝の永山治取締役会議長は9日、「提案は当社の要請によるものではなく、当社の事業などに関する詳細な検討を経た上で行われたものではない」とのコメントを発表した。一方で、永山氏は「CVCは、単独での資金調達を想定しているものではなく、協調投資家とのコンソーシアムの組成や金融機関からの資金調達を前提としており、その検討には相応の時間を要し、複雑性を伴うと考えられる」とした。今回の買収提案を巡る議論が性急に進むことに釘を刺した格好だ。

   この降って湧いたような買収提案は、東芝にとって吉か凶か。少なくとも社内には不評の声がある。前出の東芝関係者は「仮にアクティビスト対策のための非公開化であれば許されるものではない」と憤る。一見、起死回生の一手のようにもうつる今回の買収提案は、車谷社長への逆風を強める可能性がある。

Foresight 2021年4月10日掲載

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