楽天に中国「テンセント」出資で霞が関が右往左往 米国の顔色を気にして残った問題点
払い込みが遅れたのは……
3月12日、楽天が日本郵政や米ウォルマートなどから総額2423億円を調達する第三者割当増資を発表してメディアに大きく取り上げられた。あまり話題にならなかったが、このとき中国ネット大手の騰訊控股(テンセント)グループからも657億円の出資を受け、楽天の3.65%の大株主になると発表されていた。ところが、テンセントからの出資については、最後までもめにもめていたという。
「最終的には4月1日に払い込みが無事完了したと報道されました。しかし楽天は、3月29日、日本郵政からの1499億円の出資が完了したが、テンセント分については31日に払い込みが遅れると発表していました」
と、話すのは大手新聞社のデスク。
「実は、この払い込みの遅延には、外国為替及び外国貿易法(外為法)が絡んでいます。経済産業省が中心になって、政府は2019年末に外為法を改正しました。このとき、海外企業が指定業種の企業に1%以上の出資をする場合、届出を行うことを義務付けたのです。その指定業種というのは、『国の安全を損なうおそれが大きい』業種などで、武器製造や原子力、電力、通信などが対象です。楽天は携帯電話事業も手掛けていますから、この業種に該当します。その届出を出すのか出さないのかでもめたようです」
そもそも、なぜ外為法を改正する必要があったのか。経産省の官僚が解説する。
「2年前に経産省と財務省が外為法の改正を急きょ行ったのは、米国からの要請だと聞いています。『米中貿易戦争』が激化する中で、当時のトランプ米大統領が米国内から中国企業を締め出す姿勢を強めていました。それを日本にも求めてきたのです。特定の国を名指ししてはいませんが、狙いは明らかに中国でした」
法改正で、10%だった出資基準を1%に引き下げた。より少ない出資額でも届出を義務付けることで、中国による日本企業の買収の動きに目を光らせるようにしたのだ。
「ただ、米国などの投資ファンドが日本企業に投資する場合も対象になってしまいますので、批判の声も上がりました。そこで取締役の派遣など経営参画の意図がない場合、届出の対象にはしないという“例外規定”が後から作られたのです」
出せとも出さなくていいとも言わない
そこに今回、テンセントの楽天への出資という話が持ち上がった。
「楽天がテンセントから出資を受けると発表した直後の3月17日、LINEが業務委託していた中国の関連会社から個人情報が流出していたことが発覚しました。テンセントが開発したアプリの『WeChat(ウィーチャット)』は世界で10億人が使っていますが、中国政府がそのデータを使って利用者の行動を監視しているという疑念が広がった。
米国では、トランプ前大統領がウィーチャットアプリのダウンロードを禁止する大統領令を出して大騒ぎになりました。楽天は通信会社として個人情報を扱っていますから、当の中国企業が出資することで情報漏洩などの恐れはないのか、という声が政治家や霞が関、識者から挙がりました。そのため、楽天に対して、テンセントは外為法の届出をしないのか、という非公式な問い合わせが行ったようで、それが増資日程に影響したのです」(前出の大手紙デスク)
楽天に詳しい通信業界関係者は言う。
「楽天の三木谷浩史社長は『テンセントと業務提携』と口では言っていますが、実際には携帯電話基地局の建設資金が足らず、喉から手が出るほどカネが欲しかっただけ。そこで仲の良いテンセントのポニー・マーCEOに頼んで出資してもらったのです。テンセントは経営参画するつもりはないようです」
当初、経営に関わらなければ外為法の届出は必要ないだろうと、テンセントは考えていた。そこに非公式な問い合わせがあって、大騒ぎになった。
前出の経産官僚は明かす。
「この届出には経産省と財務省それぞれの許可が必要になり、その後の管理もこの2省が行いますが、楽天の場合、通信事業があるので総務省も絡んできます。また、安全保障ということで、内閣官房の国家安全保障局や外務省も関係します。どこも米国政府がこの出資にどんな反応を示すかを気にしているものの、明確に届出を出せと言った人はいなかったようです。
仮に届出を出されたら、審査をしなくてはなりません。しかし、その結果、出資しても大丈夫と国が太鼓判を押してしまえば、後々何か問題が起こったときに、責任を問われてしまいます。出資するなと結論付けてしまった場合、当然テンセントからの資金は得られなくなり、政府が56.87%の株式を持つ日本郵政が多額の資金を提供したにもかかわらず、経営に大きな影響が出てしまう可能性もある。出さなくていいと明言してしまっても、何かあった場合、同じように責任問題になりかねませんからね」
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