モデルKoki,の炎上 彼女が踏んだ「着物の帯」の2つの意味
いずれもハイブランドばかり
モデルのKoki,が出演した伊ヴァレンティノ(VALENTINO)によるウェブCMが炎上した。着物の「帯」のような物をハイヒールで踏んでいるシーンに批判が殺到、ヴァレンティノはプロモーション動画の公開を停止し、3月30日には公式に謝罪を表明した。その背景にある2つの意味について考察する。
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Koki,と言えば、日本で最も有名な芸能人カップルとも言える木村拓哉と工藤静香夫妻の次女。
名前の「Koki,」は、故「本田美奈子.」(ほんだみなこどっと)と同じように、表記上は記号(カンマ)が付くが、「藤岡弘、」(ふじおかひろし)と同じく記号部分は発音せずに「こーき」と読む(なお「o」は正確には、上に横棒がつくローマ字長音記号マクロンである)。
2018年、15歳で「エル・ジャポン」の表紙モデルとして鳴り物入りでデビューして以来、ブルガリのアンバサダー、シャネルのパリコレ・モデル、エスティローダーのグローバルスポークスモデルなど華々しい活躍を見せてきた。
いずれも、厳選されたハイブランドばかり。順風満帆のキャリアが醸し出す「お膳立て感」はSNS上でしばしば揶揄され、「親の14光」だとして嫉妬する声も上がっていた。
しかし、インスタグラムのフォロアー数は現在326万人を超え、若者層を中心に新時代のファッション・アイコン的人気を誇っていることも確かだ。
今回のCMは、ヴァレンティノのクリエイティブ・ディレクターであるピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)が今春から打ち出した「DI.VA キャンペーン」の一環として日本向けにKoki,を起用したものだった。
寺山修司の映画に発想を得た
この「DI.VA」は、女神とか歌姫という意味の「ディーバ」と「異なる価値」(Different Values)を掛けた言葉のようで、Koki,の他に、韓国ではNetflixで大ヒットしたドラマ「愛の不時着」主演女優のソン・イェジン、中国では人気女優クアン・シャオトンが起用されている。
そうしたビックネームと肩を並べての出演だったが、肝心の演出が炎上してしまった。CMの監督は松本ツバサ氏、撮影は東京在住の中国人女性カメラマン、フィッシュ・チャン(Fish Zhang)氏とのことだが、フィッシュ・チャン氏はインスタで「寺山修司の映画『草迷宮』に発想を得た」と明記していた。
寺山修司監督の映画「草迷宮」(1979)は、泉鏡花の小説を基にした幻想的な映画だ。三上博史が演じる主人公のアキラ少年が母親の目を盗んで、土蔵に幽閉されている「千代女」と言う名の女性と密会する際に「赤い帯」が登場する。土蔵から飛び出したアキラが、砂丘に敷かれた長い赤い帯の上を駆け抜けるシーンは強烈な印象を残す。
部屋に「おいで」と手招きする姿も千代女とKoki,は共通している。寺山映画における幻想的かつ性的な表象としての「赤い帯」が、今回のCM動画でKoki,がディーバとして誇らしげに立つ際の足元にある「帯のような物」のモチーフになっていることは、見れば明らかだろう。
しかし今回のCMには、寺山修司的なアングラ風描写は濃厚に描かれるが、「帯のようなもの」についての説明的描写はない。単にKoki,がハイヒールで、着物の帯にしか見えない物の上に立つシーンが唐突に描写されるだけだ。
寺山修司の「草迷宮」は40年以上も前の映画だ。アングラ劇団「天井桟敷」を知る者も少なくなってきており、制作者の意図、寺山修司を換骨奪胎する狙いが受容される基盤は脆弱になっている。
そのような意味でのクリエイティブの作り込み不足と制作意図の不明確性が、今回の批判を招いた背景としてあると言えるだろう。
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