「森総理に就任祝い1千万円を…」 私立幼稚園連合会の「4億円消失」、元役員が証言
検察ではなく警察
今回の一件は、使途不明金が政界工作に使われたかどうかに加え、告訴までの経緯の異常さも際立ち、注目されている。先の大手紙の社会部記者によると、
「連合会サイドはもともと、4億円の使途不明金の問題は内々に済ませようとしていたようなのです。香川前会長に1億5千万円返済させ、そのほかの使途不明金は内部で“調整”して済ませる。そういった判断に傾いていたなか、3月6日、NHKがこの件を抜いて報じてしまったのです」
その初報からわずか5日後の11日夕方。
「警視庁捜査2課が担当することに決まりました。10日には連合会側が告訴状を作成して翌11日に提出、即日、受理されたわけです。告訴状提出、受理までの時間があまりに短すぎる。通常ではありえないことです」
異例の迅速さの裏には、香川前会長が山口県で幼稚園を経営しながら、同時に県の公安委員に就いていたことが影響しているそうである。
「NHKが報じた直後に山口県の公安委員らの働きで、3月9日には警察庁が詳細な情報を把握できていた。その結果、警視庁に刑事告訴させる方針が決定したとみられます。ここで動いたとされるのが警察庁出身の杉田和博官房副長官と警察庁ナンバー2の中村格(いたる)次長のラインです。二人は安倍政権時代から官邸の意向を汲むコンビとして知られ、中村次長は菅さんの官房長官時代の秘書官も務めた。今回も、菅政権の意向を忖度したと言われている」(同)
どういうことなのか。杉田―中村コンビの動きについては、関係者の間で次のような見方がなされている。
「連合会の使途不明金問題は菅官邸の意向で、政治家まで及ばないようにしたという話がある。というのも、かりに東京地検特捜部が捜査することになれば、連合会のブラックボックスに斬り込むことになる。仮に森さんを筆頭とする自民党の文教族議員に裏金工作が及んでいたなんていう話になったら大変です。森さんが女性蔑視発言に続いてまたも大きな騒動に巻き込まれてしまったら、いよいよ本当に東京五輪が吹っ飛ぶことになりかねません」(同)
ゆえに、検察ではなく警察による捜査が早々と決まったというのである。
しかし、果たしてこれで政治家は枕を高くして眠れるのか。国会で一連の問題を追及している立憲民主党の牧義夫代議士いわく、
「野党が文科省からヒアリングをした際の資料に、事件の経緯が記されていましたが、香川前会長は“私的な流用はない”と説明しているといいます。金の使途はあくまで不明なのです。なのに、告訴容疑に業務上横領が入っているところに、前会長と元事務局長にすべての責任を押しつけて終わらせる意図が見え隠れしているように感じます」
6年前のパーティー券
かくてまだまだ闇の部分が残ると言うほかない連合会事件。そのHPには〈全国の私立幼稚園に通う園児数は約130万人で、国公立を含めてすべての幼稚園児の約80%を私立が担っています〉とあるが、活動の現状はあまり知られていないと社会部記者は言う。
「連合会にとって一番の悲願は幼児教育無償化でした。それを一昨年10月、スタートさせることができたのです。20年のケースをみると、国と地方の合計で8858億円もの予算が計上されています。諸経費を含めると1兆円に届くでしょうね。うち私立幼稚園には4980億円がついています。これらは2年前に増税された消費税を財源としていますが、この巨費を確保すべく連合会は日夜、ロビー活動を続けてきたわけです」
無償化といっても、すべての幼稚園でタダになるわけではない。先の片岡進氏によれば、
「園児1人当たり月額2万5700円までを国が支援する制度が幼児教育無償化です。たとえば幼稚園料4万円の幼稚園であれば2万5700円との差額だけが保護者の負担分で済みます」
いずれにしても、公的負担の実現は連合会にとって私立幼稚園に通う子どもの増加という実益に直結するわけだ。一方、時の政権にとっても、保護者の負担減で支持増につながる。
「だから長年、全日本私立幼稚園連合会は無償化を錦の御旗にしてきたのです」
とは、元文科事務次官の前川喜平氏。
「予算編成の時期になると、文教族の議員から“幼稚園の無償化に近づくよう、少しでも頑張れ”とハッパをかけられたものです。文教族は省内人事にも影響力を持っているので、役人は頑張っていました」
幼稚園の事業者と政界とのパイプ役を担ってきた河村元官房長官は、前述したように5年間と区切った上で「連合会からの寄付などは、一切なかった」と断言していた。ところが、18年の官報にはこう記されている。
〈建友会 全日本私立幼稚園連合会 300,000 千代田区〉
これは、元官房長官の資金管理団体「建友会」に関する政治資金収支報告書の訂正の記載。15年分の報告に記載洩れがあったというのである。
つまりは6年前、建友会は、連合会にパーティー券30万円分を買ってもらっていたわけだ。河村事務所に訊くと、
「会見の時点では、とり急ぎ、過去5年間にわたって調査をさせていただいたと申し上げました。御誌からご指摘を受け、3月23日の17時ごろ、連合会に30万円をお返ししました。さらなる調査を進めてまいります」
だそうである。大きな額ではないとはいえ、少し遡っただけでたちまち露わになった、連合会による政界への資金工作の一端――。
検察ではなく警察の捜査により、不正経理事件は個人の横領で幕引きとされるのか。ただ、前会長はそれに異を唱えているという。事件にはもう一波乱の第二幕があるかもしれない
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