中国の香港弾圧に日本政府も自民党も及び腰、毅然とした態度は「日本共産党」だけの皮肉
《爪のあかを煎じて飲んでみてはどうか》
しかし、西側諸国が中国化する香港を危惧し、中英共同宣言で取り決めた一国二制度を持ち出して非難しても、中国にしてみれば、香港は“自国”なのだからと聞く耳を持たない。
「アラスカで行われた米中外交首脳会談で、楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員が『中国には中国流の民主主義がある』『米国が自国流の民主主義を他国に押しつけるのをやめることが重要だ』と話していましたが、中国の民主主義ってどういうものなの? と問い質したい気持ちになりました。たとえ日本が香港やウイグルの人権侵害について話し合おうと民主主義の価値を中国に持ちかけても、『干渉するな』と反発されるだけで、まったく話は噛み合わないでしょう」
3月16日、日本とアメリカとの外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)が発表した共同宣言では、中国を名指しで批判し、香港と新疆ウイグル自治区の人権状況に深刻な懸念を表明したものの、中国に対する姿勢は、実を言うと、政府内でも一枚岩ではないという。
「2月18日、香港民主派への弾圧に抗議する13000筆あまりの署名を鷲尾栄一郎外務副大臣に手渡すことができたのですが、初めは加藤勝信官房長官が受け取る予定でした。ただ、場所は議員会館でと指定されましたが、結局アポは入りませんでした。次に茂木敏充外務大臣に届けようとしたら、それも調整できないとのことでした。JPAC(対中政策に関する国会議員連盟)事務局長の長島昭久衆議院議員が粘り強く交渉してくださって、ようやく鷲尾副大臣に手渡すことができたのです。ですが、外務省内での撮影や取材などは許可されず、長島議員の手配で議員会館にて記者会見を行いました。
野党も同じで、以前、周庭さんと立憲民主党の枝野幸男代表に会いに行ったのですが、最初は写真を公にするのは待ってくれと言われました。最終的にはOKしてもらいましたが……」
上記のJPACとは、国安法の導入で不当な弾圧を受けている香港の人々を支援しようと結成された超党派の国会議員連盟だが、「超党派」とはいえ公明党、社民党、共産党の議員は所属していない。
「私が参加した3月16日の会合では、ある立憲民主党の議員は、『中国に対してどこまで強く接したらいいのかわからない』と、人権弾圧への懸念を示せば、逆効果になるかもしれないと、慎重な姿勢でした。中国の問題に関心があってもJPACに所属できない事情があるのか、話を聞きにきただけという議員もいます。JPACの総会では、『光復香港 時代革命』の黒い旗が掲げられることもあるので、親中派の人たちには参加しにくい雰囲気があるのかもしれません。
JPACには参加していないものの、実は中国の香港に対する弾圧即時中止、国安法撤回をはっきりと明言しているのは日本共産党です。今までは香港問題にほとんど触れてこなかったのに、今さらという思いもありますが、日本政府の生ぬるい対応に反して、中国に臆することなく発言した志位和夫委員長に対し、あの産経新聞でさえも《日本政府は、少しは日本共産党の爪のあかを煎じて飲んでみてはどうか》と持ち上げていました。昨年1月には東シナ海での覇権主義的な行動と香港での人権侵害を受けて、共産党は中国に対する綱領上の規定まで変えています」
立場を超えて協力すべき
だが、阿古教授は「反中」を訴えたいわけではない。
「もちろん国際社会の一員としても、毅然と立場や考えを表明することは必要です。しかし、私は中国や中国人を否定したいのではありません。また、中国政府への抗議活動や社会を変えるための運動であっても暴力や破壊行動は支持しません。民主主義を取り戻すために、暴力を利用すれば、暴力と恐怖で国民を押さえつける中国政府のやり方と変わらないからです。暴力で奪い返しても、国民の支持は得られないでしょう。
必要なのは、中国の何が問題なのか、丁寧に細部を検証して、外交交渉を重ねることです。たとえば、ウイグル人の強制労働の問題も“ジェノサイド”を強調すれば反発するだけなので、中国は労働者の国なのですから、労働者の働く環境をチェックしたうえで、改善する取り組みを支援するようにすれば、問題を打開する余地があります。今はウイグルには調査にも入れない状況なので、まずは調査に入れるようにすることが大切です。
ただ、中国のような我々とは価値観が異なり、理解するのに時間がかかる国との外交を丁寧に行うことができる人材が日本では不足しています。JPACにしても、様々な立場の人がかかわることができるようになればいい。人権問題であれば本来、リベラルも保守も立場を超えて協力すべきなのに、お互いにけん制し合って連携ができていません。また、選挙で勝てればいいとか、世論を見て『中国はけしからん』と言えばいいだろうとか、その時々の自分の利益となると判断して取り組んでいる人も見受けられます」
今年、中国共産党は創立100年を迎える。しかし、習近平体制は決して盤石ではなく、政治的に安定していないという。
「2018年の全人代で国家主席の任期制限を撤廃する憲法改正を承認したことにより、習近平はこれまでの『2期10年』を超えて、長期にわたって国家主席にとどまることができるようになりましたが、今のところ彼の後継者は出てきていません。中国共産党において習近平党総書記に次ぐ第2位の序列である李克強首相も、もうすぐ辞任するのではと言われています。今の時点では、中国経済は好調ですが、経済が崩れれば、国民の不満は一気に噴出するでしょう。中国は不安定な状況になると、国民の支持を得るために外部に敵を作って、団結が必要だと説く政治を行いますが、現在も足元がぐらついていることがわかっているからこそ、国内外で高圧的な態度をとり続けているのでしょう。だから今こそ日本は、中国を過度に敵視することなく、責任ある大国として人権や国際倫理を大切にするよう働きかけなければならないのです」
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