田中邦衛さん逝く 9年前、体調が悪くても地井武男さんの告別式に参列した優しさ

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地井武男さんの告別式に参列

 田中さんは晩年、長く体調がすぐれず、2009年の時点で認知症の症状が出ていた。田中さんと親しい過去の映画共演者から聞いた。もちろん書かなかったが、ほかの共演者たちも知っていたはずだ。

 にもかかわらず、「北の国から」など数々のドラマで共演した地井武男さんが2012年に亡くなると、田中さんは葬儀委員の1人となり、東京・青山葬儀所で営まれた告別式に参列する。「北の国から」で息子の純を演じた吉岡秀隆(50)に体を支えられてのことだった。

 誰の目にも田中さんの健康状態が悪いのは明らかだった。それでも、たどたどしい口調で弔辞を読んだ。

「昨年秋に我が家に来てくれたけど…あれは別れを言いにきたのか…4月には電話や手紙もくれた…ちぃ兄、会いたいよぉ~」

 田中さんは泣いていたが、田中さんの病を知る人たちからも嗚咽が漏れた。

 死因は老衰。葬儀は家族で営まれた。ちなみに長女の田中淳子さん(56)はNHK広報局長である。報道局出身のエリートが就くポストだ。お別れの会などの予定はない。コロナ禍のせいもあるだろう。

 田中さんの家族は次の文章をマスコミ各社に送った。

「俳優・田中邦衛は、2021年3月24日午前11時24分、老衰のため、息を引き取りました。家族に見守られながら、安らかな旅立ちでした。88歳でした。

 長年、応援してくださったファンの皆様をはじめ、多くの方々に支えられ、心に残る数々の作品に出会い、幸せな役者人生を歩むことが出来ました。ここに、生前の御厚誼を心より感謝いたしますとともに、謹んでお知らせ申し上げます(以下略)」

 田中さんが世に広く知られた「若大将シリーズ」の第1作「大学の若大将」の公開から、ちょうど60年での旅立ちとなった。

*1西日本新聞2020年1月10日付夕刊

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月4日掲載

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