日大アメフト部「悪質タックル」から3年 「井上奨」元コーチが歯学部職員として復職
日本大学アメリカンフットボール部で起きた「悪質タックル事件」から3年――。関西学院大学の選手に危険なタックルをするよう選手に指示したとして、2018年7月に日大から懲戒解雇されていた井上奨・元コーチ(32)の処分が取り消され、4月1日付で大学職員として復職することが、「デイリー新潮」の取材で分かった。
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なぜ「アメフト部・元コーチ」が「歯学部」に
「いつもは新しい職員が採用されると事前に張り出しされるのですが、今回はそれがありませんでした。ただ3月下旬には、“あの井上コーチが帰ってくる”という話は徐々に漏れ伝わってきました」
こう語るのは、ある日大関係者である。復職する職場は「歯学部」の学生課だという。
「アメフト部の専任コーチとして雇われていた彼が、どうして『歯学部』に来ることになったのかはわかりません。よりによって学生の相談に乗ったり、表に出て仕事をする学生課になぜ配属したのだろうと職員たちの間で話題になっています」(同)
事件は2018年5月、「日大フェニックス」対「関学ファイターズ」の伝統の一戦で起きた。宮川泰介選手(当時)が、パスを終えて無防備な状態にあった関学のクォーターバック(QB)目がけて、背後から激しくタックル。関学の選手に全治3週間の大怪我を負わせたのだった。
「事実認定」のねじれ
誰の目にも故意とわかるプレイが映像として残っていたことから、「悪質タックル」は連日ワイドショーなどで大きく取り上げられ社会問題となった。
宮川選手は、実名・顔出しで記者会見を開き、内田正人前監督(65)と井上氏から「相手のQBを潰せ」などと、再三指示を受けていたと“告白”。一方、内田・井上の両氏は「指示はしていない」、「けがを目的とした指示ではなかった」などと反論したが、世間は宮川選手には勇気を持って告白したと賞賛する一方、二人の指導者に対しては見苦しい保身に走ったなどと厳しく非難したのだった。
関東学生アメフト連盟は、独自調査を経て、発生から一カ月も経たないうちに両氏の指示を認定し、二人を「永久追放」にあたる除名処分にした。続けて、日大が設けた第三者委員会も同様に事実認定。第三者委の報告を受け、日大は同年7月に両氏を懲戒解雇した。
なぜ一度懲戒解雇した井上氏を3年経って、再び日大は雇用することにしたのか。別の日大関係者が経緯を語る。
「関東学生アメフト連盟、日大第三者委と、続けて二人に対して“クロ”認定が出ましたが、翌年出た警視庁の捜査結果で、一転“シロ”となったことが大きい」
当時、警視庁は加熱する世論を受けて、試合映像を解析するとともに、約200人の関係者を聴取するなど慎重に捜査を展開した。すると、
「第三者委のヒアリング結果との間に多くの食い違いが出てきた。最終的には『二人からの指示はなく、宮川選手が指導を誤認した』という結論に至ったのです。それを受け、東京地検も19年11月に両氏を『嫌疑不十分』で不起訴処分としました」(同)
先に懲戒解雇処分が撤回されていた内田氏
この間の18年10月、処分に納得していなかった内田氏は、日大に解雇無効を求める訴えを東京地裁に起こした。日大は争う姿勢を示したが、
「警察と地検の捜査結果は内田氏にとって大きな追い風となった。結局、裁判所の勧告に従い、19年12月に、日大が懲戒解雇処分を撤回し、内田氏が退職することで和解となりました」(同)
一方の井上氏はというと、
「日大をクビになった後、知人を頼って建築関連会社に再就職し、一度は新たな人生を歩み始めました。ただ、ずっとアメフト一筋でやってきた彼からすれば、慣れない仕事は厳しいものだった。内田氏の処分が撤回されたのに、なぜ自分だけという思いが募り、内田氏に続き昨年10月、解雇無効を求めて日大を訴えたのです」(同)
アメフト部に戻すわけにも行かず……
日大としては内田氏の処分を撤回しておきながら、井上氏だけ撤回しないというわけにはいかない。
「結局、裁判所の勧告を受け、内田氏同様、懲戒解雇処分を撤回することで和解しました。内田氏の場合、すでに定年退職を迎える年齢だったのでそのまま退職となりましたが、井上氏はまだ30歳を過ぎたばかり。本人が復職を希望したため、受け入れることになった」(同)
とはいえ、アメフト部に戻すわけにもいかず、歯学部学生課という職場を用意したのだという。一度は井上氏を“厄介払い”した日大だったが、
「今は暖かく再び迎えようという気持ちです。当時は世論の激しいバッシングに遭い、庇いきれなかったというのが本音。第三者委の結論にも従わざるを得なかった」(同)
日大は取材に……
「デイリー新潮」は日大に取材を申し込んだが、
「お問い合わせの件につきましては、回答を差し控えます」(企画広報部広報課)
と答えるのみだった。
前出の日大関係者によれば、井上氏はこれから関東学生アメフト連盟に対しても、処分撤回を求めて行動を起こす方向で考えているという。
だが、仮に悪質タックルの指示がなかったとしても、宮川選手を精神的に追い込んだ道義的な責任を問う声は消えないだろう。今回の復職で日大批判が再燃する可能性もある。“茨の道”を進むことになった日大と井上氏の未来はいかに――。