あなたの不倫相手に会わせて… 30年間連れ添った妻が彼女の前で語った意外な本音

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妻と愛人、不思議な関係性

 とはいっても、妻の由美さんは夫と彩乃さんの恋を管理したかったわけではない。その後、夫が彩乃さんとデートしようが部屋に寄って遅くなろうが、妻は何も言わなかった。

 一方、由美さんと彩乃さんもときどき会っていることを、陽司さんは双方から聞くようになる。

「最初は彩乃も遠慮がちだったみたいです。だけど妻が言った『私も夫の好きな人を好きになる』は本当だったみたいで……。しかもなぜかふたり、会うたびに気が合うのがわかったと」

 1年ほど前、彩乃さんが妊娠した。気をつけていたはずなのにと、陽司さんは青ざめた。由美さんに悪いから中絶すると彩乃さんは取り乱した。翌日、由美さんは彩乃さんと会って、産むように説得してきたと陽司さんに笑顔で話したという。

「結局、流産してしまったんですけどね。そのときも由美は彩乃の部屋へ行って、食事を作ったりしていたそうです。ショックを受けているんだからやさしくしないとダメよと妻には言われました」

 何がなんだかわからないままに、陽司さんと彩乃さんの関係は今も続いている。由美さんと彩乃さんは今まで以上に姉妹のように仲良しだ。

「あとから知ったんですが、彩乃は家族に恵まれていなかったんですよ。子どものころに両親が離婚して、彼女は父親とふたりきりで大きくなった。大学を出て就職し、これからは父親孝行をしようとしたら父親は再婚して。彼女が高校生のころから、父にはつきあっていた人がいたわけです。自分がいなければ、父はもっと早く再婚できたのにと思ったこともあると、由美と僕の前で話してくれました。妻はそういう彩乃の育った環境にも気持ちを揺り動かされたようです」

 3人の関係は、もちろん3人だけの秘密だ。子どもたちも知らない。

「妻の心の広さに甘えていると言われればそれまでなんですが、単に心が広いというだけではないような気がしますね。一度、妻に『由美の本心がわからない。普通は怒るだろう?』と言ったことがあるんです。すると妻は、『あなたは私じゃない、私はあなたじゃない。ひとりの人間として尊重したかっただけ』とさらりと言いました。かっこいいですよね。彩乃も妻には一目置いている、というか非常に尊敬しているようです」

 今では彩乃さんは妻を「由美さん」と呼び、妻は「彩乃ちゃん」と呼んでいる。ふたりでショッピングに行くからと、陽司さんが彩乃さんとのデートを断られることさえあるというから不思議である。

「僕としてはふたりが仲がいいのはうれしいような寂しいような……。ただ、由美への気持ちと彩乃への気持ちはやはり違うんですよ。どちらかを選べるものではない。そんな本音を妻に言ったら、『たまたま私たちは結婚という制度に乗っかった。でもあなたと彩乃ちゃんは、私たちが離婚しない限り、制度には乗れない。それだけのことよ。私たちには歴史があるけど、あなたと彩乃ちゃんの歴史はまだ浅い。でも愛情は期間の長さとは関係ないでしょ。好きな人と一緒に過ごしたいのは誰でも同じ。私にだって好きな人ができるかもしれないわよ』としみじみ言っていました。最後のひと言は、目から鱗でした。妻に好きな人ができたとき、僕は同じ態度をとれるかどうか自信がない」

 世間では浮気だ不倫だと糾弾される関係を、妻が認めているのは珍しい。ただ、由美さんとしては、好きな人に好きなことをして生きてほしいというシンプルな思いがあるだけなのかもしれない。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年3月31日掲載

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