「天国と地獄」妙に色っぽかった綾瀬はるか “男女入れ替わり”の歴史と記憶に残る名作

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 別居婚10年の夫は、大のドラマ好き。今はBS11の台湾ドラマ「時をかける愛」にハマっているが、ミステリーやサスペンスは犯人を秒速で当てる。トリックやカラクリを解くのではない。役者のキャリアや実力、番手を鑑みて「これだけで出番が終わるはずがないから犯人」と言い当てる。元役者だから、読み方が玄人。そんな夫が面白いと称賛したのが「天国と地獄」だ。

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「綾瀬はるかと高橋一生が入れ替わる」だけでも話題を呼び、謎多き緻密な展開が老若男女にウケた。私も1月期の約40作の中で5番目に面白いと思っている。

 男女入れ替わりの戸惑いに関しては、正直やや不満。望月彩子と日高陽斗(はると)というキャラクターが脳内で固まる前に入れ替わっちゃったので、「え、望月はこんなカマトトな女だった?」「日高はここまで冷静かつ器用に女をこなせる?」と違和感もあった。あったけれど、事件の真相を追ううちに、入れ替わったからこその有利と不利、立場の逆転、共闘態勢へと見せ場が多くて、まったく飽きさせなかった。

 望月版の綾瀬は通常運転だが、日高版の綾瀬は妙に色っぽくて私の好み。ドレスの裾から見えた大腿四頭筋にも惚れた。あの見事な筋肉は1日にしてならず、だよ。彼女の長いキャリアの中で観たことのない女だった。そろそろドーンと色気全開にして、欲の強い女を演じてほしいなと思った。

 そして、カマトトしぐさ女装はさておき、やはり高橋は偽悪の立ち位置がよく似合う。殺人鬼と思いきや、情が厚くて自己犠牲を厭わぬ善人。サイコパスからナイスガイ。もってくよね。

 綾瀬以外の女優があまり目立たず、ほぼほぼ男で構成されているにもかかわらず、イヤな感じがしないのはなぜかしら。捜査1課のオールグレーな絵ヅラですら嫌悪感なし(鑑識の林泰文は可愛いし)。セクハラとあだ名つけられとる悪徳デカの北村一輝も、刑事としての矜持があるからかな。

 1課でお味噌扱いされ、さらには入れ替わって絶体絶命な綾瀬を陰で支えたふたりも大きい。使えない奴と侮っていたら大活躍の相棒・溝端淳平。入れ替わりに気づいたときには拍手喝采だよ。手際は悪いし、びびりだが、綾瀬の手となり足となる、従順な下僕に。

 もうひとりは完全なるヒモの柄本佑。日雇い清掃員だが仕事はある。金はないが時間はある。穏やかで素直、家事が得意で飯もうまい。床上手なら完璧だが微妙に判断つかず。しかも無茶ぶりや張り込みも快諾。こんなヒモならウエルカム。

 そして、この作品を思い出すときに一番に思い浮かべるであろう顔が迫田孝也。二卵性の双子で高橋の生き別れの兄っつう、ギリ納得できる設定で登場。身の上話が超ド級の不運と不幸。過ちを犯したとはいえ責めづらい。あまりに気の毒で。

 最終回を観ずに書いているので、微妙に斬りこめず隔靴掻痒。でも男女入れ替わりとしては歴史と記憶に残る作品に。次に入れ替わりモノを作る人のハードルをかなり上げたね。というか、もう入れ替わらんでええ。現実で勝負してほしい。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年4月1日号掲載

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