「公文」は受験システムへの適応力を上げるだけ? 専門家「本質的な意味での学びとは異なる」
新入学、進級の季節。賢い子どもに、と願う親の耳に残るのが「くもん、いくもん!」のキャッチフレーズだろう。実際、東大生の3人に1人が公文式教室の出身とも伝えられるが、通っても賢くならないという噂もあって――。
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狂言師の野村萬斎親子がイメージキャラクターを務める公文式は、日本発祥の教育法だが、すでに50を超える国と地域に教室を展開しているとか。世界で効果が認められているならわが子にも、とはやる親の気持ちはわかるが、そういうときこそ冷静に、である。
「公文式は基礎的な計算が速く正確にできるようにするための、効率的な手段にすぎません」
と話すのは、『なぜ、東大生の3人に1人が公文式なのか?』(祥伝社新書)の著書がある教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏。賢くなるための万能薬ではない、ということらしい。
「公文式には英語や国語もありますが、創業者が築き上げた公文式の神髄である算数・数学を前提に話しますと、公文式が求める能力は三つ。一つ目は、大量の計算問題を速く正確に解ける処理能力、二つ目は、いやな作業もコツコツ続けられる忍耐力、三つ目は、与えられた課題に疑いをもたない力です。この三つが身につくと、日本の受験システムに適応するうえで、大きな利点になります」
さらにおおた氏は言う。
「いま教育界でブームなのが“非認知能力”。目標に向かって努力する力や他人とのコミュニケーション力など、点数化できない能力のことで、大雑把にいえば“人間力”です。公文式で忍耐力ややり抜く力が身につけば非認知能力の向上にもつながる、とも言えるじゃないですか。公文式をきちんとこなせるようになれば、自学自習の姿勢が身につくのは事実です」
両刃の剣
やっぱり万能のように聞こえてきたが、ここで急(せ)いてはいけないようである。
「公文式のメリットは両刃の剣。学習プログラムは計算力の向上に特化され、図形や文章問題はなく、思考力の鍛錬にはつながりにくいからです。もともと、あくまでも高校受験レベルまでの代数をスラスラと解けるようにするために開発されたものですから」
これが最初の「効率的な手段にすぎない」という意味だったわけか。
「公文式とはそれ以上でも以下でもない。学習の報酬が“理解するよろこび”よりも“先に進む達成感”にされていて、試行錯誤を繰り返して思考力を鍛える本質的な意味での学びとは異なります。先ほど“受験システムに適応する”云々と言ったのも皮肉を込めていて、効率的に点数をとるのは人間の能力の一部にすぎないじゃないですか」
迷いはじめた親に、おおた氏は「子どもによって合う合わないがある」と伝えたうえで、こう言う。
「先に教材をどんどん進めることに快感を得られる子には向きますが、じっくり考えるのが得意だというタイプの子には、あまり向きません。親も“公文をやりなさい”と言うだけでなく、子どもを上手く乗せながら勉強習慣を身につけさせたりする必要があります」
要は万能薬などないのである。生活習慣も改善せずに、ある薬ばかり飲み続けたところで健康にはならない。それと一緒だろう。