ヒトラーを興奮させた陸上「村社講平」 メダルを逃すもベルリン五輪の主役に(小林信也)

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“人間機関車”も憧れ

 5日後、5000メートル決勝でも村社とフィンランド勢の対決が再現された。スウェーデン、アメリカの選手も加わり、さらに激しさを増した。結果、村社は今度も及ばず4位にとどまった。

 村社はメダリストではない。しかし、異国の人々の心に深い感銘を与えた。

 後にまた印象的な出来事があった。エミール・ザトペック(チェコ)といえば、“人間機関車”の異名を取り、48年ロンドン五輪1万メートル、52年ヘルシンキ五輪では5000、1万、マラソンに優勝した長距離界のレジェンドだ。

 このザトペックが81年、招かれて来日した際、「どうしても村社講平と一緒に走りたい」と切望し、75歳になった村社と一緒に5キロを走った。13歳だったザトペック少年が、陸上競技を志すきっかけとなったのがベルリン五輪の村社だった。

「今日はわが人生で一番幸せな日です。私のヒーローである村社と一緒に走ることができたのだから」

 感激の面持ちでザトペックは語った。これこそが人が人を触発し、秘めた才能が開花する素晴らしさ。国や時代を超えて、人と人とが響き合う、スポーツの力ではないだろうか。そして五輪はその貴重な舞台だ。

 ザトペックはまたこんな言葉を残している。

「勝利は偉大である。しかし、友情はもっと偉大である」

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

週刊新潮 2021年3月25日号掲載

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