「埼玉愛犬家連続殺人」2人の子供が明かす両親の意外な素顔 「私には甘い優しい父親でした」
市内一等地にあった「犬舎」
DV被害者たちの体験談を読むと、別れるという結論にはなかなか至らないようだ。「私が彼を怒らすようなことをしなければ」などと、言動に気をつけて暴力を回避しようと考えるケースが多い。
風間はアフリカケンネルを盛り上げることで、いい関係に持っていこうとしたようだ。86年には、犬の飼育・繁殖を行っていた「万吉犬舎」に事務所と従業員寮をかねたログハウスを建設。「万吉」は地名である。翌87年には、熊谷の中心地に、ペットショップを開店した。関根が万吉犬舎で仕事をし、風間がペットショップを切り盛りし、お互いの距離を保つこともできた。
ペットショップは3階建て。アラスカン・マラミュートとライオンの大きな写真が掲げられ、「犬猫狼」の文字があった。目の前に八木橋デパートがあり、近辺には銀行も並ぶ。そこは今、駐車場となっている。熊谷では一等地なのに、そこだけ歯が欠けたように建物がない。
そこから、国道407号線を荒川大橋を渡って南に2kmほど行った田畑に囲まれた地に、万吉犬舎があった。屋根には「犬猫狼」「犬はアフリカケンネル」という二つの大看板があった。犬舎は今も朽ち果てながら残っているが、窓などはほとんど破れ、建物の中は乱雑に散らかっている。ログハウスの天井のシャンデリア風の照明器具はそのままだ。
命がけで離婚
事件が起きる前年の92年12月、アフリカケンネルに税務調査が行われる。「離婚をして不動産名義を風間に移し、関根には県外へ出てもらい、別居したほうがいい」とのアドバイスを風間は弁護士から受ける。それを胸に秘めていた風間だが、年が明けた1月16日、それまでを超える虐待が、和春に加えられた。2階の階段の上から和春は、関根に突き飛ばされて階下の壁にぶつかる。壁板が割れた。裸にして玄関先に座らせるいつもの虐待に加えて、関根は和春を木刀で叩き続けた。
必死で止めた風間は、このままでは、いつか息子は殺されてしまう、と思い、離婚を決意したという。弁護士からのアドバイスを伝え、税金対策のために籍を抜こう、と風間は関根に提案した。
風間は控訴審第12回公判(2004年9月15日)で語っている。
「離婚を切り出すときは命がけでした」「暴行を受けるかもしれない。しかし、ここで切り出さなければと思い、離婚届にハンを押してもらうことだけを考え、『別れてください。子供の親権は私にください』と言いました」
課税を逃れるための偽装離婚だと信じて、関根はそれを承諾する。93年1月25日、法的な離婚が成立した。
家を出た関根は2月からは、前年に知り合ったばかりの、前出の中岡の家に住み始める。中岡はブルドッグを飼いブリーダーを目指しており、勉強になるからと関根の運転手などを引き受けていた。群馬県片品村の中岡の家は、国鉄(現JR)から買った貨車2台をT字型に置き改造したもの。地元では「ポッポハウス」と呼ばれた。今は何もない原っぱに、コンクリートブロックだけが残っている。
次々に殺害し、遺体を解体
最初の殺人が起きたのは、93年4月20日。この時、関根が51歳、風間が36歳、中岡が37歳である。犬の売買で関根とトラブルのあった、山上治男さん(仮名)が殺された。39歳だった。
続いて7月21日には、暴力団幹部の高城康伸さん(仮名)が殺される。51歳だった。高城さんは山上さん殺害に気づいて関根を強請っていたのだった。同時に高城さんといつも一緒にいる付き人の小宮山亮さん(仮名)も殺害される。21歳だった。
8月26日に殺されたのは、54歳の田中泰代さん(仮名)。関根は田中さんに、法外な値段で犬を売りつけた上、偽の投資話で金を巻き上げている。
いずれの遺体も、ポッポハウスに運ばれ、風呂場で解体された。刻まれた肉片は、近くの渓流に流される。高温で燃やされて粉になった骨は、山林に捨てられた。
関根とのトラブルを、山上さんの妻は知っていて、埼玉県警行田警察署に伝えている。万吉犬舎やポッポハウスを捜査当局は監視していたが、それをかいくぐっての犯行である。関根の殺人者としてのエキスパートぶりがうかがえる。
逮捕されたとき、娘は…
遺体がほぼ消滅していることもあり、捜査は難航する。事件の翌年の秋になって、中岡の妻が勤務先の建設会社から、5千万円を横領している事実を、捜査当局はつかむ。痴話喧嘩のもつれから発生した事件で、被害者の処罰感情も弱いものであったが、中岡への揺さぶりに使えると考え、捜査当局は妻を逮捕する。
中岡は、任意の取り調べに応じた。自分は死体を見せつけられた恐怖から、死体の運搬と解体後の遺棄を手伝っただけだ、と供述。殺人は、関根元と風間博子によるもの、と語った。中岡の案内で、片品の山林から、多数の骨片、焼けた腕時計ロレックスサブマリーナが発見される。時計は山上さんのものであることが、製造番号から確認された。
95年1月5日、関根と風間が逮捕される。小学3年生になっていた希美は、ペットショップで風間と一緒にいた。
「その前から、警察とかマスコミは来てたんで、その日も普通に来たという感じでした。私、逮捕というのが分からなくて、ただ連れてかれちゃうって思った。警察の人は『すぐ帰ってくるから』って言うし、お母さんも『大丈夫だから』って言うけど、何が何だか分からなくて……。お祖母ちゃん(風間の母親)が迎えに来てくれて、夜ニュースを見ても最初は意味が分からなかった。もう一度ニュースで見た時に泣きました」
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