自動翻訳企業が社内で「英語禁止」にした理由 「英語を学ぶより漫画やゲームの方が役に立つ」

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 楽天にユニクロ。英語を社内公用語とする企業もある中で「英語禁止令」を打ち出す会社が――。自動翻訳を手がけるロゼッタ(東京都新宿区)は、今月からグループ全社で英語(外国語)を禁止とした。業界紙記者がいう。

「今後、グループ会社が開発したAI翻訳システム『友(ユウ)コネクト』を使うそうです。PCやスマホで『友コネクト』のヴァーチャル空間に入ると、口にした言葉は相手側の母国語に翻訳されて字幕で画面に表示されます」

 たとえば日本人、中国人、アメリカ人の3人による会話。日本人の画面には他2人の発言がすべて日本語で表示され、アメリカ人の画面には英語が、中国人の画面には中国語が映し出される。ロゼッタCEOの五石順一氏はこう語る。

「今のところ日中英の3カ国語のみですが、やろうと思えば70カ国語ぐらいは可能でしょう。残るは翻訳精度の問題ですね」

 そもそものきっかけが面白い。同社グループでは、“ヴァーチャル海外旅行”の事業に取り組んでおり、

「諸外国の現地ホストによる名所案内の映像を、こちら側でVRゴーグルを装着しながらネット経由で楽しむというものです。通訳は弊社のスタッフが務めるのですけれど、これが誤った訳ばかりしている。“クジラ”を“魚”と訳したり。現地ホストとの事前の打ち合わせでもミスコミュニケーションが多かった」(同)

 ならばいっそ、仕事ではAI翻訳を使ったほうがいいと考えたのだという。

「“英語禁止令”と発表しましたが、正確には“翻訳がAIより優れていない人は母国語を話しましょう”ということ。ですから、日本語の使用を禁じられた中国人なんかもいます」

 グループ全体260人のうち外国人は約2割。スマホやPCを通じた会話は面倒にも思えるが、社員は自宅でのリモート作業が主で、ネットを介したやりとりに支障などないらしい。

 目下、唯一の難点はAIの「聴き取り」能力とか。

「はっきりと綺麗な、正しい日本語で話さないと音声が拾われません。人間なら曖昧に喋っても類推して理解してくれますが、AIだとそうはいかない。話し方に慣れが必要です」

 滑舌が悪くても、やはり正しく認識されない可能性がある。とまれこの「英語禁止令」、製品PRとも映るが、それ以上に五石氏の信念が影響しているそう。

「AIのおかげで、英語ができないことがハンディキャップだった時代は終わります。英語を勉強するより、日本が誇る文化である漫画を読んだりゲームをしたりしたほうがよほど役立つし、国際人になれるだろうと」

 英語教育に注力する国はついに小学校での必修化に踏み切ったが、そんな施策へのアンチテーゼがここにも。

週刊新潮 2021年3月25日号掲載

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