震災を臆せず描く「監察医 朝顔」 監察医モノとしても見どころの多い良作

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 一昨年のシーズン1からずっと観ている。思わせぶりというか匂わせに近い、次回への阿漕(あこぎ)な引っ張り方にツッコみつつも、時折不意打ちを喰らって泣いたりもしている。茶化してはいけないと偽善な自分もいる。

 矢継ぎ早にシーズン2を制作、しかも2クールぶちぬき。もうあの一家との付き合いが長くなりすぎて、朝ドラ級のなじみが。家族モノとして観るか、監察医モノとして観るか、東日本大震災でやりきれない悲しみを抱えた人々の心を支える作品として観るか。要素が多すぎて、とても1200字ではまとまらないのが「監察医 朝顔」。なので、私が好きな部分を挙げていく。

 まず、上野樹里演じる主人公の朝顔。震災で母(石田ひかり)が行方不明になったトラウマを抱えていた。母が消息を絶った地に行くも、足が震えて電車を降りることすらできず、仕事で訪れる災害現場でもフラッシュバックに苦しむ。そんな朝顔が強くなった。何がいいって、食べることを大切にする信条が伝わるから。

 悲しみの中で、泣きながらおにぎりにかぶりつく朝顔の表情がとてもよかった。母の分まで生きる。生きるために食べる。劇中、食事のシーンが割と多いのも、朝顔の信条なのだと勝手に思い込んでいる。朝顔の家は古くて、鍋も釜もとにかく昭和。味噌汁やカレー、ピザトーストもいちいち昭和の香り。地味だけど伝わるものが多い。そこも好き。

 朝顔は監察医としても優秀だが、頼れる妻であり母でもある。事件や事故に巻き込まれる体質の夫(風間俊介)には頼らず、イヤイヤ期を迎えた娘(加藤柚凪(ゆずな))に手こずる。遠方で入院していた祖父(柄本明)を頻繁に見舞う孫娘でもあり、認知症になった父(時任三郎)を受け止める娘でもあり。もう、仕事どころではない。夫の左遷&別居に育児ストレス、祖父の看取りに父の介護、しかも第2子妊娠ですってよ! 朝ドラのヒロインより抱える案件が多すぎて。優等生すぎる朝顔に、ぐうの音も出ませんわ。

 でもって職場は天国。問題を抱えすぎる朝顔を理解してくれる元上司・山口智子に、頼もしく成長した部下・志田未来。法医学教室といえば、ちょっと前までは名取裕子の印象が強かったが、上野樹里チームが見事に塗り替えた感もある。新人イケメン・望月歩も投入されたしな。つまり、朝顔は「持っている」。人に恵まれているというわけだ。

 もうひとつ、監察医モノとしても、見せ場はてんこもり。法医学だけでなく法昆虫学や法歯学にまで広げた展開や、薬物中毒死や虐待死への言及、エンバーミングの必要性など、事件性や社会性をちゃんとアップデートしている。実際に起きた事件と要素が重なることも何度かあった(放火事件や幼児虐待死事件)。天才や変人が活躍する安易な造りではなく、法医学を通して現実問題に真摯に向き合おうとする姿勢が見える。

 東日本大震災で家族や愛する人を失い、自分を責め続けている人を、臆せずに描いた部分も評価したい。行方不明の2525人にも思いを寄せて。結論、良作。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年3月25日号掲載

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