コロナ禍で増加の脂肪肝、飲酒しない人も要注意 肝臓がんになるケースも
エコー検査で重要な“色”
肝心の検査については、職場や自治体で行われる健康診断の血液検査がおなじみである。
「ALT(GPT)やAST(GOT)、そしてγ-GTPといった項目で、肝機能の障害を調べます。一般の健康診断などでは、それぞれ正常値は『30以下』『30以下』『50以下』となっていますが、これらの中で一つでも基準値を超えていれば、エコーによる検査や肝炎ウイルス感染のチェックなどが必要になります」
中には、これらの肝機能値に異状がないにもかかわらず、脂肪肝が進んでいるケースもあるという。
「それは肝硬変が進んでしまった人です。ALT、AST、γ-GTPの値はいずれも、肝臓が破壊されて放出される酵素の量を示します。従って破壊されている過程では、これらは高い数値を示しますが、長い時間をかけて破壊し尽くされてしまうと、肝臓はまさしく“なれの果て”状態となり、もはや高い数値が出ないのです。先に紹介した70代男性は、まさにこのタイプでした」
血液検査はぜひ定期的に受けるべきだといい、基準値を超えた場合は、その先のエコー検査で脂肪肝か否かの判定がなされる。
「ポイントは“色”です。技師が画像を見て、腎臓など他の臓器と比べて肝臓が白く見え、くっきりとコントラストが出ていれば、脂肪肝だと診断できます。反対に、他の臓器と同じような色の場合は脂肪肝ではありません」
ここで脂肪肝と診断されたら、続いて線維化のリスクチェックをしなければならない。血液検査による「FIBー4インデックス」法では、年齢やALT、AST、血液中の血小板の数値をもとに計算し、どこまで症状が進んでいるかが推定できる。血小板の数は、肝臓の線維化が進むと低下することが分かっており、健康診断のガイドラインによれば正常値は14・5万~32・9万。ちなみに脂肪肝では、15万以下ですでに肝硬変の疑いがあるという。
その計算式とは、年齢×ASTの値を血小板数の千分の1×ALTの平方根で除したもので、例えば50歳でALT、ASTともに25、血小板数が20万だとすると、その数値は1・25となる。
「1・30未満の方は、線維化はほぼ見られず、健康診断でも問題はありません。逆に2・67以上の場合、または血小板数が低下している方は、次のステップとして肝生検やエラストグラフィ(肝臓の硬さを測定する検査方法)が必要となってきます」
肝生検とは肝臓の組織を針で突いて採取し、線維が可視化できるよう薬剤で染め、その様子を顕微鏡で調べる手法であり、
「脂肪の量や炎症、線維化の程度を直接に確認できるメリットがある一方、肝臓に針を刺すという身体への負担は小さくありません。そもそも入院が必要になってしまいます」
体重を7%減らす
これに対し、超音波やMRIを用いたエラストグラフィは、身体的負担がほとんどないという。
「特に、MRIを用いるMRエラストグラフィは、振動波が伝わる速さから肝臓の硬さを推定することで、サーモグラフィのように視覚的に全体の硬さが把握できます。場合によっては肝生検とあわせて検査を行う場合もあり、これらの検査で線維化の進行が確認された場合は、発がんの高リスク群に振り分けられます。そうした方は年に2回はエコー検査を受けるなど、日頃から気に留めておいたほうがいいでしょう」
現状では、NASHを治療するための専門薬は、一般診療においてはまだ登場しておらず、
「糖尿病の治療薬である『SGLT2阻害薬』に脂肪肝を改善させる効果があるとの報告も出てはいますが、脂肪肝には現在、保険適用されていません。まずは地道に、食事療法と運動療法を実践することです」
日本肝臓学会のガイドラインによれば、体重を5%減らすことでQOL(生活の質)の改善が得られ、また7%減らせばNASHの肝脂肪化が軽減され、浸潤した炎症細胞の減少など肝組織に改善がみられるという。そのための手段として、週に3~4日の有酸素運動を1回30~60分、これを4~12週間続けることで、体重減少のいかんにかかわらず肝脂肪化が改善されるというのだ。
さしあたり、もっとも手軽に始められるのはウォーキングであろう。1日8千~1万歩が望ましいところだが、無理のないレベルから歩き始めればよく、また最近では「レジスタンス運動」(筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける動作を繰り返し行う)も脂肪肝改善に有効であるとの研究報告がなされている。室内でも可能なスクワットはいかがだろうか。
「脂肪肝の多くは悪化しないタイプとはいえ、線維化してNASHになってしまうと大変です。決して甘く見ることなく、健康診断で異変を指摘されたら一度は医療機関にかかることをお勧めします」
“サイレントキラー”をなだめつつ、うまく付き合うことで他の病気も予防するといった「一病息災」の心構えも、また肝要であろう。
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