羽生結弦が自ら課した高すぎる壁、世界選手権で「クワッドアクセル」に挑むか

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チェンの合計点は322.28

 18年、19年の世界選手権(※20年はコロナ禍で中止)を制し、羽生の好敵手と目されるネイサン・チェンは、今季グランプリシリーズ・スケートアメリカ(昨年10月)、全米選手権(今年1月)に出場。優勝した全米選手権では、現状最高難度のジャンプである4回転ルッツも跳んだ(ショートでは成功、フリーは着氷で乱れる)。

 チェンが全米選手権でマークした合計点は322.28。対して今季に入ってから羽生が出場した唯一の試合である全日本の合計点は319.36。世界選手権を予想する際には、どうしてもこの二つの数字を比べたくなる。しかしながら、共に国内大会で出した二人のスコアは、そう単純に比較できるものではない。

 羽生は、世界選手権代表の発表会見で「ネイサン選手の動向は、もちろん気になってはいます」としたうえで、次のように述べている。

「ただ、僕自身がやること、僕自身がレベルアップしていきたいことは、それだけじゃなくて、やっぱり4回転アクセルであったり、そもそもこのプログラム自体をどういうふうに進化させていくのか、深めていくのかということも大切なので、まずはそこが一番大事かなと思っています」

 4回転アクセルと同時に羽生が目指すのは、すべての要素が途切れることなく流れていく演技。それこそが羽生の最大の強みでもある。羽生は、誰も成功したことがないジャンプを完成されたプログラムの中で跳ぶという高すぎる壁を超えようとしているのだ。

 コロナ禍で練習拠点のカナダに行けず、日本での孤独な練習を余儀なくされた今季前半。羽生は自らに課した厳しい課題に苦しみながら取り組んできた。個人的には、万全な状態で世界選手権に臨み、完璧な滑りを披露するため、無理はしないでほしいという思いもある。

 だが、もし世界選手権で羽生が4回転アクセルに挑むのであれば、その挑戦とプログラムの完成度が両立するという“確信”を持ったからに違いないだろう。コロナ禍のシーズンを締めくくる世界選手権で、羽生結弦は、自らに課した高い壁を超えていくのだろうか。

沢田聡子(さわだ・さとこ)
1972年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。公式サイト「SATOKO’s arena」

デイリー新潮取材班編集

2021年3月20日掲載

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