「ヘディングで痴呆になる」説を徹底検証 専門家「認知能力の低下が見られる」

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 考えてみれば不思議なスポーツである。人間の最も器用に動かせる手を使わず、逆に最も守るべき頭をボールにぶつけにいく。で、昔から囁かれてきた噂が「ヘディングするとバカになる」だった。カズも久保建英(たけふさ)もそうなるのか。ボールを追いかけるわが息子も……。

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「サッカー選手は痴呆になる? 確かにそんな話を聞いたことあるけど、僕は違うと思いますけどね」

 日本サッカーといえば、この方。メキシコ五輪で銅メダルを獲得、得点王に輝いた釜本邦茂氏に聞くと、

「だって、僕、得点の3分の1くらいはヘディングで入れてますが、何ともないですからね。ほらこの通り」

 通算548ゴールを叩き出した名ストライカーは、かつて国会議員も務め、76歳でまだまだ頭脳明晰。噂は俗説の域を出ない、と信じたいが、残念ながら真実のようだ。

「元サッカー選手は、一般の人より認知症などの神経変性で死亡する可能性が3・5倍高い」

 2年前、英グラスゴー大学は元選手1180人の死因を調査。すると一般の人と比べ、アルツハイマーで5・1倍、それ以外の認知症で3・5倍、パーキンソン病で2・2倍が発症、死亡していたという結果が出た。これを受け、サッカーの母国・イングランドでは昨年、11歳以下について練習でのヘディング禁止を通達している。

髪の毛も…

「長期的な影響についてはまだ研究途上ですが」

 と言うのは、金沢星稜大学人間科学部の奥田鉄人教授(スポーツ医学)である。

「少なくとも短期的な意味では、ヘディングが脳に悪影響を及ぼすのは間違いないでしょう。2013年、アメリカの研究チームが、女子サッカー選手について、ヘディングをした後にiPadを使った実験を行い、反応時間を調べた。すると、何もしていない状態の時と比べて明らかに反応が遅くなったんです」

 それを参考に、奥田教授のチームも、実際に研究を行ってみたという。

「うちの大学の男子サッカー部6人の選手を対象にしました。全日本学生選手権に出場するレベルの強豪ですが、彼らに10回ヘディングをしてもらい、その後、定規を上から下に落としてキャッチさせるテストと、スマホアプリで認知能力を評価する簡単なテストをしたんです」

 すると、やはり全員に反応時間と認知能力の低下が見られたのだ。

「瞬間的に脳の損傷が見られるのだと思います。実際、経験者に聞くと、ヘディングを強く当てた後は、少しの間クラっときてその場に留まってしまう、と。脳震盪防止のためにマウスピースをしている選手もいますよね。とりわけ子どもの場合、首の筋肉が弱く衝撃を支えきれない。また、脳がまだ十分に育っておらず、入れ物である頭蓋骨との隙間が広いですから、ヘディングをすると脳が大きく動いて傷ついてしまうんです」

 大変である。

 これらを先の釜本氏にぶつけてみると、

「そうですか。確かに発育途中にある子どもたちがヘディングするのは、あまり良くないかもしれませんね。僕もヘディング練習はこれでもかというほどやりましたけど、首にしっかり力を入れてたから何ともないのかな。髪の毛は何本か抜けただろうとは思うけど」

週刊新潮 2021年3月18日号掲載

ワイド特集「変な噂 悪い噂」より

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