覚せい剤の売人は本当に消えたのか? 日本最大のドヤ街「大阪・西成」を歩いてみた

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数年前まではそこら中に“シャブ屋”が立っていた

 しばらく話し込むうちに、彼は「実は俺もやっとったで、バイトで」と打ち明け始めた。

「昔はいくつかエリアがあってなあ。まず、太子交差点の近くに、Kっていうドヤがあるんやけど、その前。で、Tビルの下。あと、こっから(飛田)新地に向かう途中にも、チョコチョコと小さいポイントがあって、そこら中にシャブ屋が立っとった。だいたい、昼の3時頃から夜の12時頃まで。でも、朝まで立っとる奴もおったよ。俺は朝までやっとった」

 なぜやめたのかを聞くと、

「バイトでやっとっただけやからなあ。知らんかったんよ、“営利(目的所持)”があんなに長く(刑務所に)行くことになるって。ツレで摘発された奴がおってな。7年とか、下手すると10年くらい、行かされたやろう。あんなバイトでそんなに長く行かされるのは割に合わんわって、ちょうど摘発が厳しくなる前に、やめたんよ」

 では、もうここでは買えないというのかと問うと、意味深な顔を浮かべる。

「内部事情は言えんわ。昔のことなら喋れるけどなぁ」

 地下ではいまだ薬物の売買が行われていると示唆するのだ。

 取材の合間には、こんな一幕もあった。記者が三角公園前にタクシーをつけた時のことである。

 運転手に料金を払おうとしていたら、突然、普段は使用しないタクシーの右側のドアが、ガチャッと開いた。ハッと目を向けると、50歳くらいの作業着姿の男性が立っている。しばらく目を鉢合わせていたが、やがて男性は焦り出したような様子で「間違えました」とタクシーから離れた。もしや、と思って追いかけて話しかけたが、男性は「すみません、すみません」と繰り返すばかり。そのまま立ち去ってしまった。

 もちろん、知人と間違えられただけかもしれない。だが、あの慌てぶりはいったい何だったのかと今も気になっている。

デイリー新潮取材班

2021年3月18日掲載

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