セブンの「店内揚げカレーパン」は絶品 なぜコンビニの“あげもの店”化は進むのか

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家で揚げたくない

 ヒントになりそうなのが、先日報じられた「マクドナルドが最高益を更新」というニュースです。20年12月期の全店売上高が約5892億円を突破したことが話題を呼びましたが、その理由は「コロナの巣ごもり需要」という解説がなされることが多い。しかし「お持ち帰り」に対応している外食チェーンがすべて好調かというと、そうではありません。例えば同じ20年12月期でも、牛丼チェーンでは、吉野家が前年比-11・2%、松屋は-9%の売上高でした(ともに既存店)。他にも大戸屋などは前年比割れです。その一方、モスやケンタッキーは前年比プラスでした。

 この明暗は「家で作れるメニューを提供しているか否か」が、大きいのではないでしょうか。「牛丼」や「定食」の類は、自宅でつくる料理とかぶり、わざわざ買ってこようとはなりにくい。対して、ハンバーガーなどのファーストフードはそうはいかない。お店でしか味わえない味、なのです。

 こう考えてみると、「あげもの」もどちらかといえば家では作りにくい食べ物です。油がはねて台所は汚れますし、油の処理も大変ですし……。コンビニで売っているのならば、買って済ませたいのでは。自宅での食事機会が増えた現在、コンビニ各社が「あげもの」に力を入れているのには、こうした需要をキャッチしているのではと思います。

 もうひとつ、ファーストフードが求められる背景には「コロナでストレスが高まっているからジャンキーなものが食べたくなる」という説も聞きました。これもあげものに当てはまりますね。

「からあげクン」の歴史は古い

 いま、多い店では20種類ちかい「あげもの」が、ホットスナックコーナーに並んでいます。歴史を振り返れば、ローソンは1985年から「からあげクン」を販売していました。ファミマが「ファミチキ」の前身であるフライドチキンを売り始めたのは2001年。これにセブンが「揚げ鶏」を発売し07年に本格参入したことで、今日のコンビニの“あげもの店化”は始まったといえます。

 コンビニとしても、揚げるというのは店内で作るのに適した調理法なのです。同じ調理でも「焼く」は火加減などの技術が必要で難しい。ホットコーナーに「焼き鳥」を扱っていることもありますが、あれは店内で焼いているわけではなく、温めているだけ。「煮る」「蒸す」はそれぞれおでんと肉まんがありますが、「あげもの」のようにどの季節でも売れる商品ではない。「揚げる」は、コンビニのオペレーションに適しているのです。

 ただし”あげもの店化”の課題もあります。店員さんが店内調理に忙しく、ほかの仕事に手が回らないのです。調理だけでなく、油の交換作業も必須です。

「油を毎日交換している店もありますが、週2~3回の店が多いです。交換基準は回数ではなく『酸価の度合い』です。厚労省が定めるガイドラインにはAV値(酸価度)が2・5を超えないこと、とあります。そのため店舗の販売状況により油の交換頻度は変わります」(さるコンビニ店舗オーナー)

 「あげもの」が売れて忙しい店ほど、油の交換が重要になってくるというわけです。あまり「あげもの」に時間を割かれると、ほかの業務にも支障がでる恐れもあります。今後は、オペレーションの深化も必要になってくることでしょう。

 そのうえで、次はどんな新作の「あげもの」が出てくるのか、楽しみです。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、デイリースポーツ紙にて「最新流通論」を連載中。

デイリー新潮取材班編集

2021年3月17日掲載

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