「女友達がいない女」の狂気と暴走 「ナイルパーチの女子会」は怖さとリアリティが凄い
協調や共感を軸とし、言語や感覚、属性で結びつく。自立した信頼関係を細く長く続けられるのが女友達。女友達がいない女を「男好き」「魔性の女」と片付けがちだが、ずっと違和感があった。男なんか関係なくて、もっと別の構図だよね。この違和感を払拭してくれたのが「ナイルパーチの女子会」である。BSテレ東が選ぶ原作とキャストのセンス最高。このナイルパーチとは、スズキ目の食用魚で、ひとつの生態系を壊してしまうほどの凶暴性をもつ要注意外来生物。女友達ができない女をナイルパーチに例える妙。原作は柚木麻子。
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主人公は都内の裕福な家庭に生まれたお嬢さま育ちの栄利子(水川あさみ)。大手商社の食品事業部に勤め、食用魚としてナイルパーチの輸入を画策中。エリートでハイスペックな美人だが、女友達はひとりもいない。
日課は主婦・おひょう(山田真歩)のブログチェック。意識高い系ではなく、ずぼらであけすけな脱力系。おひょうが食べた菓子パンは必ず買い、おひょうの行きつけの店から近所に住むことを知った栄利子。偶然を装い、おひょうと直接会うことに成功。そこからこの悲しき物語が始まるのだ。
エリート特有のすました冷淡さ、常軌を逸した執着、危うい精神状態へ暴走していく栄利子を水川が魅せる。狂気や暴挙を正当化する表情がまあ凄い。慇懃無礼で独善的、人と適度な距離を保てない。常に煽り運転状態。その様子がサイコホラーばりに怖いと思う一方で、純粋さや不器用さが不憫でもあり。女友達に執着する人はこういう思考回路なのかと驚くが、納得もいく。
水川に侵食されていく山田も、実にリアルにずぼら主婦を体現。穏やかな夫(篠原篤)とのなれあった空気感は、実在の夫婦に見える。これ、最近のドラマでは軽視されているが、案外重要。
山田も女友達がいない設定だが、こっちはこっちで背景が違う。厄介な父親の面倒もあって、人間関係に執着しなくなる。飄々と生きてきたはずが、水川によって生態系が壊されていく。
山田はブログの書籍化をもちかけられる。妙に下手に出て持ち上げるが、値踏みしている編集者(信川清順)がこれまたリアルでね。こういう編集者いたいた! 消費されることが価値であると思い込まされ、妙な自己顕示欲が生まれた山田は、穏やかで幸せな生活(と夫も?)を失ってしまうのだ。
水川が加害者で捕食者、山田が被害者で被食者という構図だけでは終わらない。若い頃、水川によって生態系を壊された圭子(森矢カンナ)、水川を脅迫してくる派遣社員の真織(小池里奈)も重要な役どころ。女友達に翻弄されすぎて磁場が狂う女たち。女友達との関係に支配や依存を持ち込むべからず。そういえば、先日福岡で5歳児が餓死する事件が起きたが、容疑者の女性たちにはナイルパーチ的な関係があったと思う。
あともう一点。リモート通話を表現する映像が秀逸。場の空気や心の機微、その人の性格がより強調されて伝わる手法。分割複数画面よりも面白くて新鮮。頭に名札のカチューシャって!