元慰安婦は今度は国務長官に抱きつくのか 米国の怒りを報じない韓国メディアの歪曲報道

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保守も中国が怖い

――保守系紙も「米国に叱られた」と報じなかった……。

鈴置:そこがポイントです。反文在寅の保守系紙にとって、鬼の首を取ったように騒げるネタです。というのに、朝鮮日報も中央日報も東亜日報も「2015年の慰安婦合意」にまったく触れなかった。

 韓国の保守は基本的には親米派です。「米国か、中国か」と問われれば「米国」と答えます。でも、いざ米国を選ぶ段になると中国の報復が怖くなる。

 できることなら、「慰安婦は日本と継続協議中」ということにして中国包囲網に加わることを先送りしたい。この心情は、左派も保守も同じです。

――でも、希望は希望として、事実は事実として報道すべきでは?

鈴置:そこが韓国メディアの興味深いところです。希望的観測に合致しない、不都合な真実は報じないのです。そもそも「米国が怒った」と書けば「韓国が合意を破った」ことを認めることになる。いくら事実でも、韓国人が読めば嬉しくはない。もともと、書きにくい話なのです。

 それに今、中国が韓国に対し報復を匂わせ始めた。親米派であっても「米国側に立つ」決断は下しにくくなっている。保守系紙もよほどハラを固めないと、「米国回帰」を明確に打ち出すのは難しくなるでしょう。

中韓の信頼関係を壊したら……

 保守系各紙はバイデン政権の登場と中国包囲網の結成に合わせ、2月から「米国側に戻ろう」とのニュアンスの社説を載せ始めていた。以下です。

・朝鮮日報「中国側に漂流し流されて行く韓国、その結果の責任をとれるのか」(2月22日、韓国語版)

・東亜日報「『同盟と共に中国を包囲』と迫る米、顔色をうかがって引きずられる外交では駄目だ」(3月5日、日本語版)

・中央日報「反中連帯本格化…韓国の『ヌンチ外交』はもう通じない」(3月11日、日本語版)

 中央日報の見出しにある「ヌンチ」とは「忖度」を意味する韓国語です。3紙ともに「その場しのぎの二股外交はもう無理」との判断の下、「米国側に付くしかない」と小声ですが訴えたのです。

 米韓2+2の直前になって、ようやく保守の間では「米国とスクラムを組む」の流れが生まれかけた。でもその瞬間、中国共産党の対外威嚇メディア「Global Times」がすかさず牽制しました。

 中国人民大学のCheng Xiaohe准教授の寄稿「Seoul shouldn’t give up strategic ambiguity over joining Quad」(3月11日、英語版)です。

 見出し「韓国は戦略的曖昧さを維持せよ」から分かるように、「二股外交を続けよ」と韓国に命じた。「Quad(日米豪印4か国協議)に参加したら、それが中韓の信頼関係を破壊する」とも書いていますから「米国側に付いたら中国に何をされるか分からない」と韓国人は底無しの恐怖を覚えたことでしょう。

 保守系紙がいつまで「米国を選ぼう」と呼びかける記事を載せるのか、米国の国務長官や国防長官がソウルからワシントンに戻った後もそう書きつづけるのか、見守る必要があります。

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