タカマツペア「高橋礼華」が語る「背が低かったから強くなれた」(小林信也)

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リスク背負って前に

「ここ数年、世界をリードしてきた中国ペアは身長が高くてパワーで勝つ傾向が強いのですが、私が世界に出始めたころの中国ペアは、トリッキーなプレーもする、どうやったらこんなショットが打てるんだろうと震えるような選手たちでした。

 私たちの目標はロンドン五輪の頃、世界ランキングの1、2位を争っていたユ・ヤン、ワン・シャオリーのペアでした。こっちが攻めているはずなのに、知らない間に相手の攻撃になっている。守備からの攻撃的なショットは、『凄い』だけじゃ表せない。どうしたらこのペアになれるのか。ずっとそれを考えて、時間さえあればこのペアのビデオばっかり見ていました」

 ある時、彼女たちの秘密の糸口を見つけた。

「相手に攻められながら、ここと思った時にポジションを前にする。二人で前に出るんです。リスクを背負ってでも前に出る」

 気づいたが、実践するのは容易ではなかった。通常は安全策で、シャトルを置きにいく。だが、その壁を越えなければ世界で勝てない。タカマツペアは覚悟を決めてリスクに挑んだ。高橋の提案を松友はすんなり受け入れた。そして二人は世界の頂点へと向かっていく。

 いまも伝説的に語られるのは、リオ五輪の決勝戦。16対19と追い込まれてからの5連続得点、大逆転での優勝劇だ。

「あの時一瞬、ああ私はやっぱり1番になれない運命なんだという思いがよぎりました。でも前の日に伊調馨さんが(試合終了直前で)逆転勝ちしたシーンが浮かんで、私もここで勝ったらヒーローになれる! って」

 もうひとつ思い出したのは、中学高校6年間の蔵王合宿だ。山道を4日間で約80キロ走った。

「雨でも走る。足元がぬかるんできつかった。こんな練習イヤだ、やめたいと思いながらやめずに頑張った。神様がそれを見ていてくれたのかと思いました」

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

週刊新潮 2021年3月11日号掲載

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