津波被災地の“異様”な夜の光景 カメラマンが見たものとは
赤い布をつけた竿が…
宮城県の沿岸部は、改めて地図を見てみると地形が変化に富み、いかにも良港に恵まれ、漁獲も多そうである。しかし同時に、貪欲な津波が猛威を振るう条件も満たしていた。
この街は、名取川を遡ってきた津波に飲み込まれた。死者は800人を超え、行方不明者は約千人といわれる。川の対岸の仙台市若林区も、震災直後「数百の遺体が流れ着いた」との報道がなされ、今回の震災のただならぬ恐ろしさを実感させた場所だ。
遺体発見現場には、自衛隊によって赤い布を付けた竿が立てられる。閑上地区では、この竿をまだあちこちで見かけた。収容作業があまりに忙しく、抜き取られないまま、放置されているようなのである。低地ゆえに未だ水に浸かったまま何台もの車が折り重なっている光景も見られた。閑上中学校の校門の時計は14時46分で止まっている。夜間営業の店も増え、日常を取り戻しつつある仙台市のお膝元に、なかなか時計の歯車が回り出さない街がある。
夜になると街の表情が一変
石巻市は気仙沼市以上に日中は往来に人があふれ、トラックの行き来が多い。死者は2500人に迫り、行方不明者は約2700人と、東北3県で最悪の被害となったが、復興への活力を感じさせる町だ。しかし、夜には町の表情が一変する。タクシーで街中を回ってみる。日が落ちると、全く人影を見かけなくなる。1時間走っても誰にも会わない。時々、ヘッドライトが人らしいものを照らし出す。運転手はぎょっとするけれど、石巻ゆかりの漫画家石ノ森章太郎の生み出したサイボーグ009などのキャラクターの像だったりする。
4月3日午前2時。石巻湾に注ぐ旧北上川河口にかかる日和大橋に立った。上流にレンズを向け、長時間露光を行う。浮かび上がったのは、あまりにも対照的な光景だ。津波になめ取られ平らになった漆黒の沿岸部と暖かな光に守られているような内陸部。
昼の喧騒、夜の沈黙
撮影を終え、また市内をタクシーで走ってみる。午前3時。もちろん誰にも出会わない。全くの静寂の中、闇に沈んだ街路で何かが光るのを感じた。崩れ落ちそうな商店の2階から、ペンライトがこちらを照らしている。危険を冒して慣れ親しんだ家屋に戻り、この時間まで過ごしていた人が、こちらを不審がって照らしたのか。
瓦礫を取り除く重機の音。生活物資や建築資材を積んでひっきりなしに行き交う大型トラック。覚悟を固めて、日常の再建に乗り出した人々。昼は「復興」へと向かう喧騒が被災地を支配する。しかし夜は一転、重くのしかかるような沈黙の闇に覆われる。どちらも夢の中のような感覚にふと囚われる。この昼夜の極端なコントラストが薄れるとき、悪夢から解放されるのだろうか。
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