コロナ禍で活躍「民間救急」の知られざる実態 “通常の仕事が半減”という苦悩も
1日も休めない
実際にコロナ対応をしている民間救急搬送会社「かご屋」の木原正昭さんも、コロナ禍での業務は苦労が多いと話す。
「ホームページに『新型コロナ感染症(COVID-19)に感染された方の搬送を承ります』と明記していますが、コロナ対応を公にしているところはかなり少ないと思います。消毒や対策をしっかりしていても、持病を抱えている方などは、コロナに感染してしまうのではないかと思うのでしょう。ホームページに書いた途端、通常の依頼が半減しましたから。
かご屋でも、重病の患者さんが毎日通勤で利用してくださっていたときには、コロナをとても怖がっていたので、当初はコロナ関連の依頼は受けていませんでした。その方が昨年の4月後半に亡くなられたこともあり、5月からコロナ患者も搬送するようになったんです」
コロナ患者の搬送依頼は、第3波が襲来した昨年11月の2週目から倍増し、12月、1月にはひっきりなしに電話がかかってきていたという。
「12月には47件、1月には77件を搬送し、1日も休めませんでした。自分だけでは捌けず、東京民間救急コールセンター以外からの依頼の場合には、同業の仲間にもお願いしています。本当の“救急”ではないとはいえ、電話は片時離さず、寝るときもすぐに出ることができるよう、胸の上に置いていました。PCR検査で陽性と連絡があっても保健所に連絡がつかない、濃厚接触者の疑いがあって公共交通機関をつかえない、という人が困り果てて、夜に電話してくることがありますから。それに、東京消防庁に認定されている民間救急は、出発地か到着地のいずれかが東京都であれば搬送は可能ですが、東京都以外で搬送の依頼は受けることができず、連絡を受けても断ることもありました。
感染者が拡大していくなかで保健所も仕事が手一杯になってしまったのでしょう。最初は保健所が調整して車を手配していたのですが、ある時期、保健所から病院に、直接、民間救急へ依頼をするようお願いがあったそうなんです。クラスターが発生した病院がかご屋に連絡をしてきたときは、32人を2週間かけて運び、精神科の病院だったので患者さんの受け入れ先も少なく、ナースが同乗しての搬送になりました。
コロナの患者さんを搬送する際には同じ防護服を脱いだり着たりすると、ウイルスが手や体に付着して汚染されるので、防護服を2枚着て対応し、車に乗るときには外側の服を脱いでから運転します。医療現場では『清潔操作』と言われていますが、ウイルスに汚染されているところとされていないところを明確にわけることが大切です。1人運ぶごとに消毒を繰り返し、清潔操作に細心の注意を払うので、1日に複数回の依頼があると本当に大変です」
ロゴを隠して
通常とは異なる装備や消毒作業のため、料金も通常より割高になる。かご屋では個人で依頼してきた場合、最低料金が3万3000円。保健所を通して依頼が来た場合、公費負担となり、危険手当等含めて平均で10万円ほどとなる。大変な思いをしても、風評被害に悩まされる事業者も少なくない。
「私は家族の理解も得られ、周囲の人からも『がんばってね』というような励ましの言葉をかけてもらうことが多くてありがたいのですが、同業者の中には嫌がらせに遭うからと、車のロゴを白いマグネットなどで隠して営業しているところもあります」
それでも木原さんは「社会貢献としてコロナ患者の搬送は続けていきたい」と言うが、再度コロナ患者が急増し、民間救急が対応しきれなくなることを懸念している。
「去年の4月に緊急事態宣言が出されたときは、交通量も激減して搬送するのが楽でしたが、今回は不要不急の外出をしないよう呼びかけられても、人出も交通量もあまり減っていない感じがします。
飲食店も20時までとされていますが、時間で区切るのではなく、できるだけ密にならない、絶対に大声で騒がないことを意識すれば、飲食に出かけることも可能だと思います。手洗いなども漫然とするのではなく、ウイルスに汚染されているかもしれない電車のつり革やドアノブ、エレベーターのボタンを触ったら、目、鼻、口を触る前に消毒をするか、手を洗うということを、常に心がければ感染を防ぐことができます。感染をゼロにすることはできませんが、もう一歩踏み込んだ感染対策が必要ではないでしょうか」
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