山田元内閣広報官が失った「上級国民」生活 億ション住まい、会食では高級ワイン

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 続投方針から一転して辞任へ。菅義偉総理の長男・正剛氏から高額接待を受けていたことが発覚した山田真貴子元内閣広報官の処遇を巡って演じられたドタバタ劇。表舞台から去ることになった彼女が失った、「上級国民」生活と、華麗なる「国会議員転身計画」――。

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 指導者に求められる重要な資質の一つとして「常に泰然としていること」があげられよう。頻繁に感情を露わにする「上」、例えば会社の上司の言葉に説得力が伴うはずはないし、自身が感じている焦りや不安を隠すことができない上司には誰もついていかないはずである。「上」が焦りや不安を隠せなければ、「下」は混乱するばかりだ。

 そうした点から見ると、「ぶら下がり会見」の場でいら立ちを隠すことができなかった菅総理の、指導者としての資質には疑問符を付けざるを得ないのではないか。NHKの中継映像によって「いら立つ総理」の姿をリアルタイムで目撃し、複雑な感情を抱いた方も多かったに違いない。

 菅総理が会見の場で思わず感情を露わにしてしまった背景に、総理の長男・正剛氏が勤める放送事業会社「東北新社」による総務省幹部らへの接待問題があるのは間違いない。この問題は「週刊文春」の報道によって発覚し、10人以上の幹部が処分される事態に発展。中でも、総務省の調査によって2019年、総務審議官時代に正剛氏らから接待を受けていたことが分かった山田真貴子元内閣広報官(60)のケースは、いくつかの要素で注目を集めた。

 一つは、1人あたり7万4203円もの高額接待だったこと。もう一つは、彼女が「菅銘柄」として知られていたことである。菅総理が強い影響力を誇る総務省で要職を歴任し、13年、第2次安倍内閣で女性初の首相秘書官に抜擢された山田氏。菅政権が誕生すると、内閣の「顔」である内閣広報官に取り立てられた彼女は、接待問題の発覚を受けて2月25日の衆院予算委員会に出席、野党議員から批判の集中砲火を浴びた。その場では、彼女が以前、動画メッセージで「飲み会を絶対に断らない女としてやってきた」と語っていたことまでやり玉に挙げられたのである。

 そして迎えた翌26日、緊急事態宣言の一部地域の先行解除に伴い、内閣記者会は総理の記者会見を要望したが、総理はこれを拒否。代わりに行われたのが冒頭で触れた「ぶら下がり会見」である。記者会見を開くとなれば、山田氏が司会を務めざるを得なくなる。それゆえ「ぶら下がり」にして「山田隠し」を図ったのでは、とも言われたが、会見で総理は、

「山田広報官のことは全く関係ない」

 と断言。その後、記者からの質問に答えるうちにいら立ちを隠せなくなり、眉間にしわを寄せ、声を荒らげる場面も。そして最後は「同じような質問ばかりだ」と捨て台詞を吐いて立ち去ったのである。

 国民が注視する場で「泰然」とは正反対の態度を晒してしまったわけだが、やはり指導者に求められる資質である「判断力」に関してはどうか。会見では山田氏を続投させる方針に変わりがない旨を述べていた菅総理。しかしその3日後の3月1日、急遽、彼女は内閣広報官の職を辞することとなったのだ。

「前日の2月28日、山田さんは菅総理や加藤勝信官房長官に連絡し、体調を崩して入院したので職責を続けられない、と伝えています。総理は“やむを得ない”として了承したそうです」

 と、自民党関係者。

「山田さんは過去に大病を患っています。で、体調が万全ではない中、野党からの集中砲火を浴びて強いストレスがかかり、入院しなければならないほど体調を崩した。山田さんとしてはもっと早く辞めたかったようですが、入院前の段階では菅さんが首を縦に振らなかったようですね」

 どうやらその「判断力」にも疑問符を付けざるを得なさそうだが、全国紙の政治部デスクによれば、

「体調不良が理由だと官邸は言っていますが、世論の反発を受け、週末になって続投は無理だという判断に傾いたのでしょう。体調不良で入院ということにすれば、野党も批判しづらくなりますからね」

 政治部記者も言う。

「体調不良が本当なのかどうかはさておき、記者たちから同情する声は全くあがっていません。彼女は広報官なのに総理番記者などと積極的にコミュニケーションを取ることはなく、嫌われていました」

遠慮せず「高級ワイン」を

 山田氏は東京学芸大学附属高校を経て、早稲田大学法学部を卒業。旧郵政省に入ったのは、1984年のことである。

「コミュニケーション能力が高く、気配りができる人物として菅さんなどに引き上げられ、ついに内閣広報官というポストについた人物です。仕事には厳しく、非常に細かいところまで部下を“激詰め”することで知られています」

 と、総務省関係者。

「総務省の本流である旧自治省出身ではなく、また、私大出身という“ハンデ”を抱えながら、典型的な男社会の中を生き抜き、ナンバー2の総務審議官という頂点に近いところまで出世した。能力が高いだけではなく、上昇志向も強い人だと認識しています」

 総務省OBはこう話す。

「彼女は新人の頃から上の人間にも物おじせずに堂々としていて、優秀でした。しかし、いくら優秀だからといって、最終的に情報流通行政局長や総務審議官にまで昇進するとは思ってもみなかったですね」

 プライベートでは20代の時に結婚するも、離婚。その後、旧郵政省の3年後輩だった吉田博史氏と再婚し、長男をもうけた。ちなみに夫の吉田氏は、接待問題で官房付に飛ばされた秋本芳徳氏の後ガマとして先ごろ、情報流通行政局長に就任している。

「山田さんは04年に総務省から出向して東京・世田谷区の助役となり、07年には一時、副区長も務めています」(同)

 08年に毎日新聞に掲載された、彼女を紹介する記事にはこうある。

〈日曜日は少年野球に出かける息子のため、早起きしておにぎりを握る。母親同士の交流も貴重な情報交換の場。「生活者であることと、世の中に役立つ仕事をすることは密接な関係にある」〉

 では、彼女はいかなる「生活者」だったのか。

「彼女は05年に東京のど真ん中、千代田区内に新築された高級マンションを夫と共有で購入しています。販売時価格で8600万円。1250万円のローンを組み、それを5年で完済している。その部屋の現在の価格は1億1千万円を超えています」(不動産業界関係者)

“飲み会を断らない”のは事実だったようで、

「ある政治家がセッティングした飲み会に飛び入りで参加しているのを見たことがあります。急に誘われて、“行きます”と応じたようです」(永田町関係者)

 また、山田氏が参加した別の飲み会では、

「途中で“いいワイン開けちゃおう”という話になって数万円する高級ワインを飲むことになった。普通なら形だけでも“いやいや”と遠慮するところですが、全くそんな素振りも見せずに飲んでいた。彼女はワインに詳しいので、それがどれくらいの値段のものかも分かっていたはずです」(同席者)

 なるほど、庶民がうらやむ「上級国民」のような生活を送っていたわけである。

「山田さんはかなり早い段階から菅さんに目をかけられていたようです。第2次安倍政権時代に女性初の首相秘書官として推薦したのも、もちろん菅さんでした」

 と、先の全国紙デスク。

「ただし、彼女は秘書官就任後、2年もたたずに総務省に戻されている。その理由は、官邸を陰で牛耳っていた今井尚哉(たかや)前首相秘書官に嫌われたからだというのは有名な話。当時、広報のやり方を巡って両者の意見が食い違ったことが発端だったようです」

高くついた代償

 山田氏自身、菅総理に引き立てられている、との認識は持っていたようで、

「(菅総理は)男らしい人。決断したらぶれない、とことんやる」

 昨年、親しい知人に対してそんな「菅評」を開陳している。しかし、必ずしも「菅一筋」ではなく、先の永田町関係者によると、

「17年から18年にかけて野田聖子さんが総務大臣を務めていた時は、野田さんのことを姉御のように慕っていました」

 そんな山田氏が大きな転換点を迎えたのは、野田総務相に忠誠を尽くしていた時期の少し前のこと。

「世田谷区の助役、副区長を務めた経歴から、15年に行われた世田谷区長選の候補に推す声が上がったのです。選挙の相手は、社民党の衆院議員から区長に転じていた保坂展人氏です」

 と、政府関係者。

「自民党からは“その後の国政進出含み”で打診がなされ、彼女は大いに悩んだようです。しかし、最終的には、自民党から“絶対に勝たせる”との確約が得られなかったことを理由に、出馬を断念しました」

 そうした過去があるため、

「山田氏は菅政権でしばらく内閣広報官を務めた後、自民党の候補として国政選挙に挑むのではないか、という見方もあった」(同)

 しかし、そんな「華麗なる国政転身計画」も、今回の一件で消滅。内閣広報官の月額報酬117万5千円、2千万円は超えると見られる年収を失うなど、「7万4千円接待」の代償はずいぶん高くついたのだ。

「今回の件は、“総務省で人事権を振りかざす菅恐怖政治の歪み”以外の何物でもない。幹部たちに甘さがあったのは間違いありませんが、彼らが菅さんの長男の接待を断れるはずがないのです」(同)

 政治アナリストの伊藤惇夫氏も言う。

「総務官僚たちは東北新社の接待を断れないどころか、喜んで応じていたかもしれません。それによって菅総理の覚えがめでたくなる、などと思ったのではないでしょうか」

 官僚たちを恐怖で支配し、会見では記者にいら立ち、度々判断を誤る。コロナ禍の世間に充満する「呆れ」にも似た空気は果たして、本格的な「菅おろし」に繋がるのか否か――。

週刊新潮 2021年3月11日号掲載

特集「豪華『億ション』住まい『山田真貴子元内閣広報官』が失った『上級国民』生活と『国会議員バッジ』」より

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