妻以外に二股をかけ…「もてない男」が調子に乗った挙句に招いた“修羅場と結末”
しかし妻にはバレていた
彼はそのころのことが、遠い昔のような気がするとつぶやいた。男として「妙な自信がみなぎっていて、麻由美もミオも、そして実際には妻のことも愛おしくてたまらなかった」のだという。だが、そんな生活は長くは続かなかった。家庭も恋もうまくいっているはずなのに、見破って復讐をしかけてきたのはやはり妻だった。
「自分では外にいるときも家にいるときも変わらないようにしていたし、変わっていないと思っていたんですが、妻から見たらやはりおかしかったんでしょうね。特にミオとの関係が始まってからはすごく怪しかったようです。あとから『急にふふっと笑ったりしていた』『ヒゲを剃りながら鼻歌を歌っていた。今までそんなことはなかった』と言われました。でも、あそこまで手痛い復讐をしてくるとは思っていませんでしたが……」
ある日、会社に怪文書が送られてきたのだ。『御社の大原祥治は、社命で出向いたセミナーで知り合った女と関係をもっている』と。自腹で行ったセミナーもあったのだが、麻由美さんと知り合ったのは、たまたま会社から受けるよう言われたセミナーだった。会社はそれを重視した。上司に呼ばれたとき、彼はまったく妻を疑っていなかったという。
「上司には正直に言いました。恋愛してしまった、と。上司は『きみが』と驚いたようでしたね。でもそのときはまだことの重大性に気づいていなかった。その後、なぜか会社にミオとのこともバレていて、さすがに焦りました」
当時のことについては急に口が重くなる。彼にとって大きな屈辱だったのだろう。
ある日、妻が離婚届をつきつけてきた。そこで初めて、彼は『妻が気づいていたのか』とハッとしたという。それだけ妻に寄せる信頼感が大きかったのだ。一方、妻にとっては信頼していたからこそ、怒りが抑えられなかったのだろう。
「信頼していた私がバカだった。この年になってこんな惨めな思いをさせられるとは想像もしていなかったわ。あなたを信用してきた自分を呪うしかない」
妻はそう言って泣いた。
「恋愛する前の自信のない私に戻っちゃって、妻には何も言えませんでした。申し訳ないと頭を下げることしかできなかった」
修羅場の果てに
もちろん、麻由美さんとミオさんにも頭を下げて別れを告げた。だがミオさんは納得がいかなかったようだ。何度か家に押しかけてきて、妻と一悶着あり、子どもたちが警察を呼ぶという事態にも発展した。
「ドロ沼です。妻はミオに、『あんたね、泥棒猫のくせに何言ってんのよ』『あんたの他にも女がいたの知らないの?』と激しくミオをなじった。それに怒ったミオが妻に飛びかかって。結局、ミオは私を往復ビンタしてきました。そこへ警察がやってきた。週末の午後だったので、近所では噂になったみたいだし。もうここには住めないと妻に責められました」
ミオさんはその後も何度かやってきたという。あげく、「私が大原さんと結婚する」と言い出した。だが妻はミオさんに向かって「あなたにたっぷり慰謝料を請求するから。それと養育費もお願いね」と攻め込んだ。ミオさんの家庭の事情まで調べ上げていたのか、それができないとわかっているかのような口ぶりだったという。
「妻のそんなイヤな面を見てしまったのも、私が原因ですからね。もういい、すべてやめようと言いました。会社の温情でクビは切られなかったけど、閑職に回されて給料も減りました」
離婚届に判を押し、彼は実家に戻った。実家で元気にひとり暮らししていた母親を頼るしかなかったのだ。
「この年になって母にも迷惑をかけています。母には詳しい事情を伝えてはいないけど、自分のことはすべて自分でやることという条件付きで、間借りすることを許してくれました」
長年ひとり暮らしをしている母には、自分なりの生活があるのだと、祥治さんは思い知らされた。
「離婚から1年半たっていますが、私はあの時点で立ち止まったまま。一歩も先に進めません。でも麻由美とミオと、そしてもちろん妻のことも、それぞれに愛していたんです。そんなこと誰もわかってくれないだろうけど……いちばんきついのは子どもたちのことですね。おそらく彼らが私を父親だと認めることは一生、ないでしょうから」
複数の人を同時に好きになる。それを客観的に理解はできても、当事者となれば受け入れられない。そんなこともあるのだ。
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