日本人は「福原愛さん」に厳しすぎる? 台湾・中国と受け止められ方が違う理由

スポーツ

  • ブックマーク

“男性より強い女性”

 一方、中国では、スポーツ専門紙『体壇報』のコラムニストが論評を提示していた。要点を抜粋すると、以下のようになる。

「日本の女性は家庭を守るべきという社会的イメージが強く、“男性より強い女性”は社会的に受け入れられにくい。福原愛は結婚当初から、夫との間に社会的地位や経済力などの面で、大きな差があった」

“格差婚”という指摘は間違っていないだろう。

「また、中国人にとって福原愛はお人形のように可愛らしく優しいイメージがあり、非常に親しみを持って受け入れられていた。東北地方の訛りのある中国語をしゃべり、身内のように見られていた。その結果、夫からのモラハラが報じられると、多くの中国人は我がことのように福原愛をかばったのである」

 そして、

「中国人は女性の権利意識が強いため、何はともあれ妻である福原愛のほうに立とうという意識が働いたのかもしれない」

 とはいえ、

「こうした心理的バイアスを排除した上で、どういう問題があったのかをはっきりさせなくてはいけない。モラハラがあったのであれば、もちろん夫にも責任はある。福原愛も理由はどうあれ、離婚する前に友人男性と同室で宿泊したのは、不適切な行為に違いない。心情的に応援したい気持ちがあったとしても、道徳や法律上のルールは重んじなくてはならない」

 中国の世論が過剰なまでに愛さん擁護に傾いていることは、当の中国人もさすがに自覚があるようだ。

 このほか、「日本の世論が厳しいのは、離婚よりも先に不倫のニュースが広まったからではないか」との見解を示している人もいた。

 中国では、不倫よりもモラハラ離婚のニュースのほうが先に注目されていた。

 不倫とモラハラ、どちらの記事を先に読むかによって、愛さんへの印象は大きく異なるはずだ。

“大和撫子”

 台湾と同じく、男尊女卑の文化が背景にあるという声もあった。

「現代の日本人はかつてほど保守的な“大和撫子”ではないものの、女性はきちんとした主婦であるべきというイメージが、今なお人々の心に根深く残っている」

 不倫という不道徳な行為は、自分と関係ない世界での出来事である限り迷惑に感じることはないだろうし、まして外国人によるものであれば基本的に傍観者でいられるはずだ。

 また、中国人や台湾人は比較的“個人主義”的であるため、他人の言動が社会常識から少々逸脱していても、自分自身に害がなければ、目くじらを立てる人は少ない。

 もっとも、福原愛さんは台湾人と結婚して台湾に住んでいたとはいえ、日本人である以上、日本的な規範意識を世間から求められてきたし、今回も実際にそうだった。

 ジェンダー観や有名人に求める倫理観、社会の同調圧力、ネットの攻撃性等々、福原愛さんをめぐる一連のニュースは、日本と台湾・中国のさまざまな違いを浮かび上がらせたと言えそうだ。

西谷格
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞「新潟日報」の記者を経て、フリーランスとして活動。2009~15年まで上海に滞在。著書に『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)など。

デイリー新潮取材班編集

2021年3月10日掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。