賛否両論の「俺の家の話」 介護、後妻業、認知症…物議を醸すテーマをまとめたクドカンの手腕に脱帽

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「俺の家の話」に対する反応が実に人それぞれで面白い。「親の介護や認知症の話は重い」という人もいれば「ふざけすぎ」という人もいる。「能で表現する新奇性」を愛でる人もいれば、「笑いがマニア向け」という人も。プロレスネタが苦手な人や胸キュンイケメンを欲する人は敬遠、宮藤官九郎ファンは垂涎。全体的に中高年が支持している模様。え、俺? 俺も断然、支持。

 能楽師で人間国宝の父親(西田敏行)が病に倒れ、介護が必要な状態に。父に反発して家を飛び出し、プロレスラーになった長男の長瀬智也が25年ぶりに家に戻り、父の介護と流派の継承を担うことに。ところが、西田は謎のヘルパー・戸田恵梨香と結婚して全財産を譲ると言う。度重なる父の健康不安で、半ば諦めの境地にいる長女の江口のりこと次男の永山絢斗は猛反対。人間国宝で宗家と言えど、台所事情は火の車。芸養子の桐谷健太は西田に身を捧げてきたが、実は西田の息子と知らされ、不惑でまさかの反抗期。プロレスをやめて宗家を継いだものの、収入のない長瀬は、密かに覆面レスラーを続ける。離婚した妻(平岩紙)と学習障害の息子(羽村仁成)に毎月の養育費を支払うためだ。

 そもそも要素がてんこもり。能、人間国宝、余命宣告、継承と相続問題、認知症に介護、後妻業、プロレス、隠し子、反抗期、学習障害、親権争い、そして色恋沙汰の清算行脚に家庭内三角関係。当事者や関係者からお叱りやダメ出し、抗議を受けやすそうなテーマをこれだけ掛け合わせ、捻(ひね)って撚(よ)って1本の太い綱にまとめたのは単純にすごい。

 個人的には初回と2話でむせた。西田と長瀬の父子に、父と自分を重ねてしまったから。我が父は足腰が弱り、頻繁に転倒。排泄の失敗は日常茶飯事。5分前に話したことを跡形もなく忘却。自立歩行できず、車椅子生活の立派な認知症だ。今は特別養護老人ホームにいるが、要支援1から要介護4まで超高速で進んだ数年間を思い出してしまった。

 老いを自覚させられた西田の細やかな表情と言動はたまらなく切ない。身体介護をする長瀬の心の根っこには「父に認められたい・褒められたい」承認欲求がある、というのも激しく共感。それでいて随所に「介護あるある」の笑いがあり、切なさと愛おしさとおかしさが一気に襲う。泣きながら大笑いすると、人はむせる。今期、最も複雑な面構えで視聴しているドラマだ。

 中盤からは笑いのみに専念できるようになった。西田が要介護から要支援に戻ったから。能楽師として復活を目論みつつ、過去の女行脚を始めたから。余命僅かな父に気を遣うも、振り回される家族はいい迷惑。でも、和気あいあいでシニカルな小競り合いは楽しい。ただただ笑っていられる。

「いくつになっても男は反抗期」という不変の真理を描くのだが、幼稚性だだ洩れの男性陣を、女性陣が突き放して締める構図もいい。

 介護や相続、親権争いは怒りや憎しみが増幅しがちな家族問題。でもこの家には程よい諦観と笑える明るさがある。救いがあるよね。

週刊新潮 2021年3月11日号掲載

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