93歳の母と無理心中した石川県中能登「副町長」 動機は慣れない選挙戦の心労か
SNSに掲載された「還暦祝い」の写真には、赤いちゃんちゃんこを羽織る男性の姿があった。子や孫に囲まれて顔をほころばせる廣瀬康雄さん(65)は、しかし、この5年後に母親と無理心中を図ったのである。
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能登半島の中央に位置する石川県中能登町。2月15日未明、長閑な田園風景が広がる町で“事件”は起きた。県警関係者が言う。
「廣瀬さんは町内の一軒家に、母親の芳江さんと妻の3人で暮らしていました。事件前日には遊びに来た長女の家族や三女と一緒に夕食を取り、その後、彼は居間でうたた寝をしていたそうです。しかし、日付が変わる頃になって、夫の姿がないことに妻が気づいた。家の中を探したところ、母親の寝室で、畳の上に仰向けで倒れた状態の廣瀬さんを見つけたのです」
彼の右頸部には十数センチの切り傷が、ベッドに横たわる93歳の母親の左頸部にも同様の傷があった。
「ふたりの傷は動脈が切断されるほど深く、部屋からは血塗れの包丁が見つかりました。外部から侵入された形跡はなく、家族は悲鳴や言い争う声を聞いていない。遺書はありませんが、廣瀬さんが就寝中の母親を刺殺した後に自ら命を絶ったものとみられます」(同)
この一件が小さな町に激震をもたらしたのは、3月21日に投開票を控える町長選に、彼が出馬表明していたからに他ならない。
妻は泣いて反対
地元の高校を卒業後、町役場で働き始めた廣瀬さんは企画課長などを歴任し、2014年から副町長を務めていた。そして、現在4期目の杉本栄蔵町長が引退を表明した際、後継に指名されたのが彼だった。
支援者のひとりが明かす。
「廣瀬さんは当初、出馬を固辞したと聞いています。奥さんも涙ながらに反対したそうですよ。勉強家で真面目な性格。全く政治家向きではなかったけれど、現町長から強く推されて断り切れなかったんでしょう。年始に副町長を退任して選挙の準備を進めていました。地元では当選確実と考えられていたんですが、自民党系の支援者に言われるがまま、町内全戸を回るようなドブ板選挙を続けていた。新聞記事の切り抜きをポケットに詰め込んで、挨拶に使えそうな話題を常に探していたのが印象的でした」
慣れない選挙戦で消耗し、最近はかなり体重を落としていたという。うつ気味になり、周囲の声がけに返事がなかったことも。
別の支援者によれば、
「倒れたら大変なので15日の活動は取りやめになりました。まさか、その日に亡くなるなんて……」
積み重なった心労が彼に包丁を握らせた可能性は高い。だが、なぜ母親をその手にかけてしまったのか。
「廣瀬さん夫妻は高齢で病気がちなお母さんを献身的に介護していた。自分の死後、妻に迷惑をかけたくないという思いがあったのかもしれない」(同)
かわいい孫に囲まれる幸せな老後は、“選挙”によって奪われてしまった。