中国ドローン企業の株が暴落の背景 決算粉飾疑惑で

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 空飛ぶオモチャとして流行したドローンは、今や人を乗せて飛行する時代なのだという。その先端を走る中国・広州の「イーハン・ホールディングス(億航智能)」の動画を見ると、2人乗りのドローンがビルの谷間を縫うように飛び回る。コックピットには操縦桿がなく、タブレットの画面だけ。試乗したジャーナリストたちは、驚きと感嘆を隠せない――。そんなイーハン社の株が突如ナスダック市場で62%も暴落したのは2月16日のこと。何があったのだろうか。

「イーハン社は2014年に設立され、19年にナスダックに上場したドローンメーカーですが、製造だけでなく、ドローンを使ったタクシーなども手掛けると謳っていました。最新型の『EHANG216』はすでに89台が売れたとされています。ところが、アメリカの空売りファンド『ウルフパック・リサーチ』の調査員が同社の工場に潜入したところ、平日なのに従業員がほとんどおらず、フロアには数台のドローンが放置してあるだけ。生産している様子もなかったと、隠し撮り映像を公開したのです」(全国紙の北京特派員)

 また、同社が取得したと主張しているテスト飛行の許可も、乗客を乗せるものではないことが判明。さらにはイーハン社がドローンを販売したとしている「シャンハイ・クンシャン」という会社は、販売契約の数日前に設立され、実体がないことも明らかに。ウルフパックは、架空の売り上げで決算を粉飾していると断じたのである。

 となれば、イーハン社のドローンがまともに飛ぶのかも怪しくなってきたが、日本で実際に「EHANG216」を購入した団体がある。航空宇宙産業振興のため、岡山県倉敷市の地元企業などが設立した「MASC」だ。

 MASCでは昨年、約3200万円を投じてイーハン社からドローンを購入したというが、事務局の担当者が言うには、

「有人ドローンの研究のためにイーハン社から1台買ったのですが、コロナ禍で中国から技術者が来られないため、一度も飛行していません。ドローンは今も倉庫に置いたままです」

 空売りファンドが暴いたイーハン社の実態や怪しい取り引きについては、

「その辺は私たちもよく分からないんです……」(同)

 高いオモチャを買わされてしまったのか。

週刊新潮 2021年3月4日号掲載

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