バイデン政権がついに認めた、「サウジアラビア皇太子」によるジャーナリスト暗殺事件の闇
断末魔の叫び声を上げながら
アメリカの国家情報長官室(DNI)は2月26日、トルコのサウジアラビア総領事館内で著名ジャーナリストのカショギ氏が殺害された事件について、ムハンマド皇太子(通称MBS)が作戦を「承認」していたとする報告書を公表した。バイデン政権が公式に認めたサウジアラビアの「闇」とは……。
2018年10月に発覚した当初、「断末魔の叫び声を上げながら、カショギ氏が生きたまま四肢を切断、斬首された一部始終」を録音した音声データが存在するという噂も流れた、身の毛のよだつようなこの事件。実際のところはどうだったのか。
ジャマル・カショギ(正確な発音はハーショグジー)氏は、サウジ初代国王の主治医の孫として裕福な名家に生まれ、体制内部で広報の仕事もしていた人物だ。
しかし、徐々にサウジ王家への批判を強め、2017年に米国ワシントンに移住。事実上の亡命生活を送りながら、サウジ政府を批判する記事をワシントン・ポスト等に寄稿し、サウジ王家にとっては目の上のたんこぶのような存在になっていた。
そのカショギ氏が婚約者と一緒に、イスタンブール市内にあるサウジアラビア王国総領事館を訪れたのは同年10月2日のことだった。
トルコ人の婚約者ジェンギズ氏と結婚するために必要な書類(独身証明書)の発行を申請しており、その受け取りに来たのだ。
情報セキュリティの観点から、スマホを大使館や領事館に持ち込むことが禁止されている場合があるが、イスタンブールのサウジ総領事館も同じだった。
そこで、カショギ氏はiPhoneを外で待つ婚約者に預け、自分は腕にApple Watchを装用。13時14分、総領事館に入っていった様子が監視カメラの映像に残されている。
これが、カショギ氏が見せた最期の姿となった。
その後に何があったか。
国連人権理事会の特別報告者アニエス・カラマール氏が2019年6月26日に提出した調査報告書は、次のように述べている。
建物の外で待っていた婚約者は
《カショギ氏は総領事館の中で、サウジ政府側の人間と思われる人物に「インターポールの要請でサウジアラビアに帰ってほしい」とか「息子にメッセージを送れ」とか言われて押し問答になった。何者かによる「お前を麻痺させる」、「彼は眠ったか」という声がした後、荒い息が続き、ノコギリで何かを引く音が聞こえた》
《これらのことから推察するに、カショギ氏は鎮静剤を投与されて動けなくなった後、プラスチックの袋を被せられて窒息死した。そして、ビニールシートの上でノコギリを使ってバラバラに切断された。遺体はゴミ袋やスーツケースに入れられて、分割して総領事館の外に持ち出された――》
建物の外で待っていた婚約者は、カショギ氏が一向に出てこないことから、あらかじめ非常時の連絡先として指定されていたカショギ氏の友人に通報。この人物がトルコの大統領府等に報告して、事件が発覚したのである。
サウジ側は当初は知らぬふりをしていた。
しかし、トルコのエルドラン大統領が8日、「カショギ氏が総領事館から出てきたという証拠を示せ」と発言するなど、トルコ政府は初期からサウジアラビアに対して強硬な姿勢を取っていた。
これは「カショギ氏殺害」の証拠となる音声データを押さえていたからだと思われる。
では、この音声データはどうやって収集されたのか。
国連の特別報告者による調査は「音声データはトルコ情報機関に聞くことを許された」とするだけで、その詳細を明らかにしていない。
そのため、「カショギ氏は総領事館に入る前に用心深くApple Watchでボイスレコーダーアプリを起動させており、その録音データがモバイルWi-Fiルーター経由でクラウド・サーバー(iCloud)にアップロードされていた」とか、「サウジ総領事館内にトルコ情報機関が盗聴器を仕掛けていた」といった説が唱えられてきた。
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