初の「東大卒」真打、春風亭昇吉が語る「東大生に最も向かない職業」をなぜ選んだのか

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春風亭のフラ

――なぜ落語家に?

昇吉:有り体に言えば、落語が好きだからです。きっかけは駅で待っている間に(立川)志の輔師匠の「古典落語100席」という本を立ち読みしたことでした。僕は岡山の田舎育ちで、30分に1本しか電車が来ないような所に住んでいましたから、待ち時間に読んで、電車に乗るとリマインドしてネタを覚えていきました。その後、東大の落研に入ったことでのめり込んだというわけです。

――少し年を取っているのは、東大入学前に岡山大を出たからとか。岡山大も立派な国立大……。

昇吉:ちょっと待ってください。僕は岡山大を卒業してはいません。岡山大法学部に合格し入学もして、一時期在籍していましたが卒業はしていないんです。その後2003年にセンター試験を受けて東大文IIに合格しました。再受験のため籍を外してもらったので、岡大のほうは除籍か入学無効になっていると思います。東大に受かる前の年は地元の予備校で勉強しました。仮面浪人と言って下さって構いませんが……。

――正直言って、堅い……。「笑点」(日本テレビ)の司会も務め、軽々しい芸が人気の昇太師の弟子とは思えないほど。会見の際、配られた“口上書”には、東大落語研究会OB・山本進、第28代東京大学総長・小宮山宏、岡山県知事・伊原木隆太、そしてワタナベエンターテインメント代表取締役会長・吉田正樹と、いずれも東大卒のお歴々が並ぶ(トリの昇太師のみ異なる)。見ようによっては、嫌味にも感じられるが、師匠から何か言われなかっただろうか。

昇吉:師匠は見ていないんです。まあ、「俺だって東(海)大だい!」と仰っていますし。

――さすがである。ちなみに昇太師匠の師匠である柳昇師匠(1920~2003年)は開口一番、「大きなことを言うようですが、今や春風亭柳昇と言えば、我が国では……、わたし一人でございます」で爆笑を取る、いわゆる“フラ”と呼ばれる、何とも言えない愛嬌、おとぼけがあった。昇太師匠もそれを受け継いでいる。そして両師ともに、自作の新作落語を得意とする落語家だ。ところが、昇吉師匠は昇太師の古典落語を見て、弟子入りを決意したという。なんか間違ってないか?

昇吉:確かに昇太一門は新作の一門と言っていいと思います。一緒に昇進する兄弟子の昇々兄さんは、まさに一門のスタイルでしょう。もっとも、「古典」というのは、戦後に生まれた相対的な概念で……。

――なんだか授業を聞いているようだ。これほど学究肌だと、楽屋で馴染めているのか心配になる。なにせ、落語芸術協会には、デイリー新潮に「令和初の真打『瀧川鯉斗』は落語界一のイケメン、元暴走族リーダーという意外な過去」(19年6月9日配信)」で登場した、高校中退、元暴走族総長の鯉斗師匠(37)のような“武闘派”もいるのだ。

昇吉:鯉斗兄さんは、僕が前座で入りたての頃、立前座(古株の前座)だったんです。優しい先輩でしたよ。でも、鯉斗兄さんはよく寄席を休んだので、慌てたこともありましたけど……。

――現在、持ちネタは新作50、古典100くらいあるという。

昇吉:落語を覚えるにも、まず文字に起こして、45分さらっては、15分インターバルを置くというやり方です。15時間くらいは平気ですね。

――受験勉強そのものだ。

昇吉:ある意味、バカなんですよ。コンピューターのようだと思われることもあるようです。でも、お寿司屋で隣りに座ったお客さんと話していて、「面白い」と言われることだってあるんですよ。新潮さんはどう思います?

――春風亭独特のフラが足りないような……。

昇吉:フラですか! よし、勉強しよう。

――これから真打というスタートラインに立つ昇吉師匠。どう化けていくだろうか。

デイリー新潮取材班

2021年3月5日掲載

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