ドラマ業界の裏側を堪能する2作「書けないッ!?」「バイプレイヤーズ」 描かれる真実と自虐

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「某局ドラマのプロデューサーに企画を出したが、保留になった。1年後、提案した内容と人物設定が酷似するドラマが別のスタッフで制作されて放送された」という話を脚本に携わる人から聞いたことがある。企画も手柄も横取りが日常茶飯事だと聞いて戦慄した。

 そんな阿漕(あこぎ)なドラマ業界の裏事情をデフォルメして、コミカルに仕上げたドラマが今期2作。フィクションで軽快なコメディだが、脚本家や役者の本音(呪詛)と真実が数滴垂らされている気がして。目を凝らし耳をかっぽじって視聴している。

 まずはテレ朝の「書けないッ!?」。主人公(生田斗真)はコンクールで受賞したものの仕事はほぼない脚本家。人気作家の妻(吉瀬美智子)を支える専業主夫になっていたが、突然ゴールデン枠の連続ドラマの執筆依頼が。

 開けてみると、まあ、大変。スケジュールは殺人的、設定やキャラクターに注文は多いわ、主演イケメン俳優(岡田将生)が余計な口出しして、プロデューサー(北村有起哉)はその言いなりだわ、テレビ局側の目に余る横暴がとにかくひどい。ひどいが、そこに数滴の真実が含まれていると推測。決定稿となるまでに、脚本家には想像を超える「感情の自殺」があるのだと知る。

 生田は次から次に無理難題を押し付けられ、執筆が進まず、幻覚(ツルツル頭の浜野謙太)を見るまで追いつめられる(失禁するほど)。しかも、初回視聴率は2・8%。惨敗。そんな脚本家の地獄を軽妙に綴れば綴るほど、視聴者には見えない圧力や忖度の存在を確信させる、切ない作品である。

 もう1作はテレ東。おなじみの「バイプレイヤーズ」の第3弾。風呂敷広げすぎて、バイプレイヤーじゃない人も名バイプレイヤー扱いというのが気にはなるが、「業界内視聴率30%」という控えめな売り文句といい、各局の人気ドラマを揶揄する茶目っ気といい、大好物。

 本人役で登場する役者の人数が甚だ多いし、本人役ではなくスタッフ役で登場する役者にも興味があるし、まとめるのが困難な大作だ。

 今回は舞台がバイプレウッドという撮影所。各局がドラマを撮影中で、あらゆる役者陣が集結しているという設定。視聴率争いや決め台詞問題、バズりたがりに匂わせ行動、文春砲対策など、各スタジオでは毎回悶着や騒動が無駄に起きる。

 私が好きなのは第6話だ。最新話の台本がネットに流出し、西村まさ彦が他局の現場を疑って捜査を始めるという設定。西村が訥々と漏らすセリフ(口調と口元の歪みが絶妙)には、民放各局への皮肉と揶揄がてんこもり。「決め台詞の精度が増せば増すほど、物語の本質がスッカスカになっていく」「パクリ癖がある」「医療モノで心温まるドラマ」「視聴率が取れない局」とかね。パクリ癖は冒頭の某局と一致したので、思わず膝を打つ。数滴の真実だ。

 もちろんテレ東なので自虐も炸裂。テレ東ドラマが初回視聴率1位を獲れたのは他局が首相辞任会見を放送したから。テレ東社長賞は1人1本のバナナだって。皮肉と批評性、危機感と自浄作用がある作品だと思う。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年3月4日号掲載

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