厚労省と日本医師会の怠慢で「医療崩壊」は起きた…厚労省OBが指摘する本当の問題点
このところ新型コロナの新規感染者数は落ち着いてきているものの、未だに予断を許さない状態が続いている。思えば、日本医師会の中川俊男会長はじめ、多くの専門家やメディアが「医療崩壊」を訴えたために宣言が発令されたのだが、
「そもそも“医療崩壊”と言われる状況に陥ったのは、厚労省と日本医師会の責任が大きいのです」
と断言するのは、元厚生労働省医系技官で、『新型コロナ、本当のところどれだけ問題なのか』(飛鳥新社)を上梓したばかりの木村盛世さんだ。
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木村さんは著書の中で、コロナ禍で露呈したこの2つの組織の問題点を指摘している。
まず厚労省だが、《責任者不在の問題は大変深刻》だとする。確かに、菅義偉首相がメディアに説明を行う際、いつも傍らにいるのは尾身茂・新型コロナウイルス感染症対策分科会会長で、感染症の主管省庁である厚労省の担当者が説明に立つことほとんどはない。
「2017年、健康危機管理のスポークスマンとして事務次官級の医系技官ポストが必要という声が上がり、厚労省に“医務技監”が設置されました。しかし、今がその“危機”のはずなのに、まったく機能していません。医系技官は行政を担う医師免許を持った保健医療のプロです。その最高責任者として、医務技監が国民の不安を払拭するべく、メディアを通じて正しい情報を発信しなければならないのに、まったく“顔”が見えません。
国や地方自治体の政治家が会見する際に、補佐役の学識経験者や厚労省の担当者が統一性のない発言をしていれば、国民が不安になるのは当たり前です。本来は尾身会長ではなく、行政のトップとして医務技監が補佐役をやらなくてはならないはず。それを放棄するのは、責任を取りたくないからでしょう。
先日始まったワクチン接種にしても、日本には重症化しやすい65歳以上の高齢者が3600万人もいるのに、まだ数十万人分しか国内に入って来ていません。しかも、厚労省が開発してきたV-SYS(ブイシス)というシステムでは、ワクチン接種と個人が紐づけられていないので、データがほしい製薬会社も売ろうという気にならないのでは、と心配しています」
コロナ対応で経営破綻
さらに、著書によれば、《医療崩壊とはICU(集中治療室)の崩壊を意味》するとしたうえで、《新型コロナウイルスに対する医療供給体制がかなり歪んでおり、一部の医療機関に大きな負担がかかっている問題》を招いているのが、厚労省と「医療崩壊の危機」を訴える日本医師会自身に問題があるからだという。
実は、日本は約160万床という世界で群を抜く病床数を持ちながら、コロナに対応できる病床数は約2万7000床(重症者対応ベッド数は約3500床)で、稼働率は2%にも満たない。もっとも病院が重症患者の受け入れを決断すれば、隔離個室の準備や、それに伴う病棟閉鎖、手術件数、外来患者の削減などが必要とされる。加えて、コロナに合わせた医療器材や消毒剤、感染防止にかかる物品の購入もしなければならず、万一、院内感染が確認されれば、外来対応、手術がすべて中止になってしまう。コロナに対応したくても、経営破綻が先に見えれば、踏み出せない医療機関もあるだろう。
「昨年の4月1日、日本集中治療医学会などが声明を出し、すでにICUのベッド数が少ないことを指摘していました。当初から冬に感染が拡大することは懸念されていましたから、感染者数も減り、医療機関も余裕があった昨年夏に、厚労省や日本医師会は既存の病床をICUとして対応できるよう法整備を行ったり、人口呼吸器やECMO(エクモ=体外式膜型人工肺)を扱える医師やスタッフを育成したり、かき集めたりしなければならなかったんです。その準備期間は十分にありました。金銭面に関しても、基金を立ち上げるなどお金を集めて、コロナ対応で経営がひっ迫してしまった医療機関を援助するなど、やるべきことをやっていませんでした」
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