事件現場清掃人は見た 父親の遺体と共に数週間過ごした娘がとった意外な行動とは

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 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り、悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。2002年からこの仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、現場で出会った女性について聞いた。

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 特殊清掃の現場では、様々な事情を抱えた人と出会う。

「ある日、私の携帯電話に1本の電話がありました。『妻の実家で義父が亡くなったので清掃してほしい』という依頼でした」

 と語るのは、高江洲氏。

「さっそく、現地に行ってみると、敷地は100坪以上あるりっぱな一軒家でした。亡くなった男性と同居していた娘と、彼女の義兄が私を出迎えてくれました。義兄が、私に電話をかけてきたというわけです」

人型に置かれた紐

 高江洲氏は、父親が亡くなった時の状況を聞いて、違和感を覚えたという。

「母親はすでに他界しており、父と娘さんの二人暮らしでした。父親が自宅で病死したということですが、当然孤独死したわけではありません。残された娘さんはどうしていたのでしょうか。彼女は30代で、誰もが知る大企業に勤めていたそうですが、話を聞いてみると、受け答えがおかしいのです」

 高江洲氏は彼女に、「お父様はどこで亡くなられたのですか?」と聞いてみた。

「すると、1階の居間を案内してくれました。そこには、紐が人の形に置かれていました。彼女はその紐を指差して、こう言うのです。『ドラマだと、死体の周りにチョークで線を描くでしょう?なのに警察が手を抜いてやらなかったから、私が紐を買ってきて、お父さんのまわりを囲んだんです』」

 紐で囲われたところには、人型の黒い染みがあったという。

「死後数週間は経ってから発見されたのでしょう。腐敗臭が家中に広がっていて、たくさんのハエの死骸も床に転がっていました」

 高江洲氏は彼女が言ったことや、なぜ遺体跡を紐で囲ったのか、まったく理解できなかったという。

「依頼主に詳しく話を聞くと、事情がわかりました。彼は、義父と連絡が取れず心配して様子を見に行ったところ、父親が居間で亡くなっているのを発見したそうです。ところが娘さんの方は『しばらく前からお父さんが動かなくなった。お風呂にも入っていないから臭いんだよ』と言ったそうです。実は、彼女は精神疾患を患っていたのです」

 彼女の部屋は2階にあった。

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