求刑・判決が法定刑を超える珍事が 検察OBが原因を分析

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 立法、行政と比べて、まだしも信頼があるのは司法だろう。が、検察官、裁判官、弁護士の三者がそろってミスする珍事が。

「わいせつDVDを販売目的で所持したカドで起訴された男二人の、先月行われた公判。法定刑の上限は懲役2年なのに、東京地検の担当検事が誤って懲役2年6カ月を求刑し、それに東京地裁の裁判官も弁護士も気づかず、地裁は二人に執行猶予付きながら懲役2年6カ月の有罪判決を出してしまった」(司法記者)

 判決後の確認作業で間違いに気づいたというから、ナンともお粗末。判事OBの弁護士も呆れ顔だ。

「公判担当検事は論告の前に、論告意見書を作成して上司の決裁を受けます。そこで求刑意見を見る上司が、まずはきちんとチェックしなければいけません」

 この一件は、検察が自ら公表に及んだのだが、

「最も責任が重いのは裁判官ですね。刑事裁判官なら担当案件の法定刑は自分の事件メモに赤字で記入するなど、ミスを防ぐ工夫を必ずしている。今回の裁判官は51歳のそこそこベテランです。うっかりしていたでは済みませんよ」(同)

 地検は「再発防止に努めたい」とお約束のコメントを出したが、同種の手落ちは稀にある。最も酷いのは、服役後に求刑・判決の間違いがわかったケースだろう。

 場所は福岡。女性の体に触ったとして、男性が県の迷惑防止条例違反で起訴された。犯行時、飲酒による心神耗弱が認められ、刑の上限は懲役1年となるはずだった。が、地検は懲役1年6カ月を求刑。福岡地裁も懲役1年2カ月の判決を2014年に下した。事情を知る関係者によると、

「男性は服役後、別件で逮捕されます。その公判中に検事が2年前の事件の求刑ミスに気づきました」

 かくて裁判所は確定判決を破棄し、懲役8カ月に訂正。超過した「6カ月分」は国が損害賠償することに。

「冤罪の賠償額は1日千円以上1万2500円以下です。この例でもそれが適用されたはず。ほぼ上限に近い額の6カ月分が支払われたのでは」(同)

 だが当然ながら、失われた時間は戻ってこない。そもそもなぜこんなことが起きるのか。先の弁護士は、

「裁判の迅速化が求められ、ミスが誘発されやすい土壌はあるかもしれません。が、やはり司法界のもたれあいの結果です。裁判官と弁護士と検察官みな、誰かが間違いに気づいてくれると思っている。法曹三者の“他人任せ”に原因がある」

 東京地検OBの若狭勝弁護士は「たるんでいるんです」と一喝する。

「最近はコロナ禍のためか、刑事事件も公判の数も減っている。だから気持ちに緩みが出ているのではないでしょうか。こうしたことが起きると、他にも求刑ミスや判決ミスがあるのではないかと疑われかねません。起訴すべきでない事件まで起訴していないか、量刑は本当に妥当なのか、冤罪が生じてはいないか……。こうして司法への疑念が国民に生じ、信頼感が損なわれていくのが一番の問題です」

週刊新潮 2021年2月25日号掲載

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