出張から帰ると美人妻も子も犬も消えていた… 不倫の恋も破れたアラフィフ男の慢心
「ねえ、浮気してる?」
2年ほど、ミユキさんとはうまくいっていた。ミユキさんは離婚歴があり、いつも「もう結婚はしたくない。だから私はあなたを束縛しないし、家庭を優先させていいからね」と言うほどさっぱりした女性だった。
「『いつか年をとって、万が一、オレがひとりになったらミユキと一緒に住みたい』と言ったことがあるんです。それは僕の本音でもありました。妻が先に逝けばいいと思ったわけではない、だけどいつかひとりになったら、という妄想を抱くことはあったので。でもミユキはじっと僕の顔を見て、『考えておくわ』って。僕が一番ではないのかとちょっと不安になりましたが、彼女はそういう女性なんだろうなとも思った。決して重くならず、常に軽やかに生きていきたいと言っていました」
そのころマサユキさんは、いつものように出社しようとしたときに妻から「ねえ、浮気してる?」と聞かれたことがある。それは「いってらっしゃい」の代わりにごく普通に妻の口から飛び出してきた。
「あまりにも突然で、あまりにも自然だったので、思わず、うっと詰まってしまいました。瞬時に立ち直って、『なんだよ、急に』と笑いながら言ったのですが、妻はにこりともせずに『なんかそういう気がしただけ』って。何かに気づいたのかとあれこれ考えを巡らせたけど、妻が僕の携帯を見ることはないはずだし、ミユキが妻に連絡をとってくるはずもない。どういうことなのかと心に重いものを詰めこまれたような気分でした」
その晩、帰宅してからわざと軽い調子で、「今朝のひと言はなんだったの、何か疑ってるの?」と聞いてみたが、妻に「ちょっと言ってみただけ。気にしないで」と躱された。
その後、マサユキさんがアメリカ出張から帰ると……自宅は冒頭で触れた有様だった。
マサユキさんが理解していなかったこと
のちに相手側の弁護士から聞いたところによれば、やはり妻は、彼の不倫の事実をつかんでいた。最初は「何かがおかしい」という妻のカンだった。
彼がミユキさんと恋に落ちたばかりのころだ。
「夫の帰宅時間はいつも不規則だったから、帰宅が遅いから疑ったわけではない。ある日、夫が『ただいま』と言ったとき、その声の調子や言い方が、いつもの『ただいま』ではなかった。そこから疑うようになった」
妻はそう言ったのだという。夫を愛していたからこそ、妻はその微妙な「ただいま」の違いに敏感になったのだろうか。
いつか浮気をやめるだろうと思っていたが、一向にやめる気配がない。探偵事務所に頼んで相手の住まいも突き止めた。
「妻はミユキに会ったそうです。お互いにけんか腰にはならず、ミユキは妻に謝った。妻は謝らなくていいと言った。そして妻は子どもたちを連れて出て行ったんです」
マサユキさんがミユキさんに連絡をとろうとしたが、電話はつながらなかった。受信拒否をされたのだ。
その後、離婚が成立した。家を処分し、すべての財産を整理して、そのほとんどを妻に渡した。マサユキさんに残ったのは、誰にも言わずに貯めていた200万円だけだ。
「妻は実家に戻りました。僕は子どもたちには自由に会っていいということになっていますが、離婚してすぐに子どもたちに謝ったとき、ふたりとも無言だった。それが引っかかって、なかなか会いたいと言えませんでした。ただ、18歳になった息子とは先日、ようやく会えた。涙が出ました。息子にひたすら謝って『もういいよ、大人には大人の事情があったんでしょ』って言われて、さらに泣けてきて……」
ミユキさんとは、あれきりだ。電話を拒絶、メールの返事もないことが、彼女の意志だと受け止めるしかなかった。ただ、何も言わずに去ったミユキさんには、今も未練があるようで、いつか再会できるのではないかと期待しているとつぶやいた。
「ミユキに恋してしまった。それは事実だし、後悔してはいけないような気がするんです。でも一方で、家庭を壊す気なんてまったくなかったのに、どうして妻はあんなにいきなり僕を見捨てたのか。それがどうしても納得できない。いや、妻から見れば僕の不倫は許せないでしょう。でも子どももいるんだし、家庭、家族ということを考えたら、あんなに急に出て行かなくても……。せめて怒りをぶつけてくれればよかったのに」
妻が許してくれると思っていたのだろうか。世の中には、泣いて謝れば許してくれる妻もいるかもしれない。だが、ルリさんがそういう女性ではないと理解していなかったことが、彼の“敗北”につながっているのではないかと思えてならなかった。ミユキさんに関しても同様だ。バレたら潔く身を退くタイプの女性であることは、彼がいちばん分かっていなければならなかったのではないだろうか。
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