コロナ禍で「不動産バブル」は本当か 業界通が解説する“偽らざる実態”
コロナ禍がもたらしたカネ余り状態によって、株価や仮想通貨の高騰に注目が集まっている。一方、不動産業界も活況と報じられ、経済誌などには『マンション・戸建て コロナ特需のカラクリ』(「東洋経済」1月16日号)、『コロナ禍の東京で「不動産バブル」が始まる?』(「Newsweek」2月9日号)といった刺激的なタイトルが躍る。
確かに、長引く「ステイホーム」によって、書斎や子供部屋を持ちたいと考える人々が増え、「リモートワーク」の普及に伴う出勤減で郊外物件への関心が高まるといった、新たな不動産需要の増加は一理あるように思える。実際、そうした傾向は数字にも現れている。
公益財団法人・東日本不動産流通機構は2月10日、2021年1月の首都圏不動産流通市場動向を発表。それによれば、首都圏中古(既存)マンションの成約件数は3,480件(前年同月比29・9%増)と前年を3割近く上回った。1月としては1990年5月の機構発足以来過去最高の数字である。また、1平方メートル当たりの成約単価は57万5,700円(前年度月比2・3%増)で、9ヵ月連続の上昇となり、在庫件数は3万7,054件(同22・2%減)と14ヵ月連続で減少している。
では、「コロナバブル」「コロナ特需」という声まで上がり始めた現状について、不動産ビジネスの現場はどう捉えているのか――。
筆者は20年以上にわたって、東京や京都に軸足を置きながら、マンション開発を中心として不動産ビジネスに携わってきた。その感覚から言えば、「コロナバブル」という言葉には些か違和感がある。結論から先に述べると、今後もマンション・戸建てともに不動産価格は上昇を続けると思われる。だが、それは新型コロナだけが原因というワケではないからだ。
そこで、『マンションと戸建て』、『都心と郊外』というケース分けをした上で、不動産業界の偽らざる実態について解説していきたい。
まず、『マンション』がコロナ禍でも堅調に売れ続けているのは事実だ。
一般企業に勤める多くの人々が、ボーナス減や給与減に頭を悩ませる一方、富裕層は概してコロナの影響をさほど受けていないため、「気に入った物件があれば買う」といったスタンスは根強い。たとえば、セカンドハウスとしてニーズの高い都心のタワーマンションや、京都の街中にある好立地マンションを、オールキャッシュないしはそれに近い形で購入する人々はいまも後を絶たない。上昇した株を現金化して物件購入に充てる層もいるが、そんなことをせずともマンションを購入できる層が一定数おり、この層が高額マンションの販売堅調状況を下支えしているのだ。彼らからすれば、日本の大都市圏に建つ高級マンションは、世界的に見ればまだ「安い」のである。
また、地方のマンションも底堅く売れている。ただ、地方にはそもそも根強い戸建て信仰があり、かつ比較的安価で戸建てを買える。その結果、地方のマンションは今後より一層、「好立地」と「非好立地」の優劣差が拡大し、好立地物件は「高くても売れ」、立地が劣る物件は「安くても苦戦」を強いられるだろう。
それでは『戸建て』はどうか。
こちらもマンション同様、販売は堅調に推移している。セカンドハウスとしてではなく、大多数の購入目的は自宅としてである。やはり、「ステイホーム」や「リモートワーク」の長期化によって、「住む場所は都心でなくともよいのでは?」「より広くて、部屋数の多い郊外物件も視野に入れてみよう」と考える人々が増えているのは間違いない。
そうした人々の背中を押すのは、住宅ローンの問題だ。郊外の戸建てを購入する層は住宅ローンを組むサラリーマン家庭がほとんどだ。コロナ禍による企業の経営難が原因で、2021年以降は給与や賞与の減少が見込まれる。住宅ローンは、前年の「源泉徴収票」で金融機関の審査を受ける。低金利が続いているうちに、より多くの住宅ローンを借りようと思えば、昨年の年収で審査を受けた方が理に適っている。しかし、今後も企業収益が回復しなければ、返済に窮するケースも有り得るため、郊外の戸建て販売の進捗は、若干鈍化する可能性は否めない。
今後の推移は 特筆すべき「4つの要素」
さて、現状をおさらいした上で、ここからは『マンション』と『戸建て』の価格が、今後どう推移するのかを考えてみたい。
現場の感覚から言えば、最も特筆すべき要素は昨今の「原価高」にある。具体的に解説すると、『マンション』の原価は大きく以下の4つに分類される。
(1)土地取得費
(2)建築費
(3)販売管理費
(4)デベロッパーの利益
(1)の土地取得費に関しては、東京オリンピックを見据え、インバウンド向けのホテル建設ラッシュに沸いた2、3年前と比べて落ち着いている。当時は、ホテルデベロッパーが高値で土地を取得していたが、そうしたトレンドは終わりつつある。
筆者の住む京都では、2、3年前よりも約20~25%程度、土地の実勢価格が下がっている。もちろん、この土地代の下落は、「ホテルバブル状態の土地代」から「平時の通常の土地代」に戻っただけであり、暴落と呼ぶのは乱暴な感がある。むしろ、コロナ禍が落ち着きを見せて需要が高まれば、マンションデベロッパー間の購入競争が激化し、大都市圏を中心とした好立地案件の価格はコンパクトシティ化の後押しもあり、再度高騰すると考えるべきだ。
(2)の建築費については、まず「労務費(人件費)」が年々アップしている現状が挙げられる。やはり、若年層の人口減に伴う“職人”のなり手不足は深刻だ。外国人技能実習制度等をうまく活用できたとしても、継続的に労務費はアップすることは避けられない。同時に、鉄筋や鉄骨を中心に「資材費」も大幅にアップする見込みだ。生コン価格の定期的なアップも見過ごせない。また、コロナ禍が収束すれば中国などで資材需要が高まり、一層の高騰局面を迎える可能性もある。
(3)の販売管理費と、(4)のデべロッパーの利益は大幅に変動しないにせよ、(1)土地取得費の再上昇懸念と、(2)建築費の明らかな上昇基調から、マンション価格は今後も高騰、よくて高止まり、といった状況で推移してゆくと考えるのが妥当だろう。
次に『戸建て』の原価構成も、マンションの原価構成と基本的には同じ。(2)建築費に関しては、鉄筋や生コンの使用料が少ないため、資材費のアップに伴う影響は限定的である。他方、労務費アップはマンションだろうが戸建てだろうが変わりないため、マンションほどではないものの、戸建て価格もじわじわと上昇すると思われる。
正直なところ、原価のアップ率が著しい大都市圏の新築マンションは、もはや「富裕層が購入するもの」となり、通常のサラリーマン層には手が出ない価格帯に押し上げられつつある。「戸建てを購入できない層がマンションを購入する」という時代は既に終わりを告げようとしている。
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