事件現場清掃人は見た 息子が自殺、咽頭がんで余命宣告された独居老人の悲劇

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余命宣告されて

「玄関には曼荼羅とも魔法陣ともつかない奇妙な模様が入った布が広げられ、部屋の壁一面にお札が貼られ、宗教的な言葉が殴り書きされた紙が何枚も貼ってありました。新興宗教に入信していたようでした」

 男性の遺品からは、会社勤めをしている形跡はなかったという。

「通勤カバンや会社の書類などはありませんでしたからね。アルバイトをされていたようですが、かなり質素な生活をしていたようです。結婚もしていなかったのでしょう。目を引いたのは、机の上に置かれていた大量の薬です。なにか持病があったようです。自殺の原因は、生活苦と病苦だったのかもしれません」

 高江洲氏が作業を続けていくうち痛ましく思ったのは、依頼主の男性だった。

「私たちの作業を見守り、その後『ドウカ、キテ、クダサイ』と自宅に招いてくれました」

 男性は、現場の近くの公団に住んでいた。

「1DKの部屋には、生活に必要な最低限のものしかありませんでした。咽頭がんで、声帯の一部を取ったそうです。医者からは、余命宣告されていると言っていました。男性は、一生懸命事情を説明してくれました」

 息子さんとは、ほとんど行き来がなかったという。

「奥さんに先立たれ、侘しい一人暮らしでした。そんな中で息子さんが亡くなって、わずかな蓄えを切り崩して私に清掃費用を払わなければならないことを嘆いていました。もちろん、費用をできるだけ安くしました。この男性と同じように孤独な暮らしをしている人はたくさんいます。余命いくばくもないのに息子さんが自殺。その後始末もしなければならないとは本当にお気の毒でした。この時は、改めて家族の絆の大切さを学びました」

デイリー新潮取材班

2021年2月23日掲載

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