バイデンに脅されて韓国が選ぶ核武装中立 日本にも突き付けられる新たな踏み絵
日本を見返すために核武装
――左派が同盟廃棄を訴えた際、2022年5月の大統領選挙で勝てるのでしょうか。
鈴置:「同盟廃棄」だけを訴えたら負けるでしょう。韓国人の多くが「米国との同盟を失ったら、誰が守ってくれるのか」と極度の不安に陥るからです。
ただ、左派には奥の手があります。中立と核武装をセットで訴えればいいのです。「中立」と同時に「韓国も核を持つ」と宣言することで安保上の不安を払しょくする。そうすれば、中道はもちろん保守の中からも賛成する人が出るでしょう。
「核を持って周辺大国――特に、日本を見返す」のが韓国人の民族的な悲願です。保守にすれば、米韓同盟を続けたうえ核を持てれば一番いい。しかし、それは米国が許しそうにない。それなら「核武装中立」がもっとも現実的な核保有への道と考えるでしょう。
そして中立。保守にとっても「絶対NO」ではありません。韓国の知識人のほとんどは若い時に一度は中立化を夢見ると言います。海洋勢力と大陸勢力が朝鮮半島を舞台に勢力争いする。だから我が民族が2つに割れた――と韓国では広く信じられているのです。
外国の勢力を排除して本当に中立が実現するというなら、多くの韓国人が賛成するでしょう。それに保守だって中国は怖い。中国のイジメをものとせず、堂々と親米を貫く自信はないのです。
――しかし、朝鮮半島で中立が成功した試しはない。
鈴置:これまでは国力がなかったため周辺大国の干渉をはねのけられなかったのだ、と韓国人は考えています。
左派が「経済力が世界10位前後に向上したうえ、核を持つから大丈夫」とささやけば、「外国勢力の干渉を史上初めて排除できる」との高揚感が国を覆うでしょう。「米軍が駐留する日本よりも格上」と、日本人に対しふんぞり返る韓国人が増えるのも間違いありません。
ミサイル原潜も保有へ
――核武装は簡単にできますか?
鈴置:核弾頭は韓国が決意すれば、数か月で製造可能と見られています。重要なのは、先制核攻撃を受けた後にも核を打ち返せる第2撃能力の保有です。韓国政府はミサイルを発射できる垂直発射筒を備えた3000トン級の潜水艦を近く就役させると明かしています。
ミサイル原子力潜水艦の保有にも動いています。すでに韓国は潜在的な核保有国なのです(「日本への毒針? 原潜保有を宣言した文在寅政権 将来は『核武装中立』で米韓同盟破棄」参照)。
――核武装を世界が許しますか?
鈴置:国際的な非難を避けたいなら、核を持ったと発表しなければいい。イスラエルのように核保有を認めず、しかし持っていないとも言わない曖昧戦略をとればいいのです。
北朝鮮との安保協力を誇示すれば「北の核弾頭と南のミサイル潜水艦を合わせ、完全な核武装国になった」と示唆することが可能です(『米韓同盟消滅』第1章第4節「『民族の核』に心躍らせる韓国人」参照)。
もし、保守が政権をとれば「北朝鮮の核の脅威にさらされているのに米国の核の傘を失った以上、その権利がある」と、はっきりと核武装を認めるかもしれません。
朝鮮半島201Z年
――話が飛躍してきました。
鈴置:近未来小説『朝鮮半島201Z年』を2010年に出版した時も、そう言われました。韓国が「離米従中」し、朝鮮半島全体が中立化する――というストーリーです。当時から兆しが多々、出ていたのですが、決定的な証拠がないので小説の形で書いたのです。
その後、「半島の中立化」と「南北共同の核」の証拠が積み上がってきたので2018年、今度はノンフィクションで『米韓同盟消滅』を上梓したのですが、それでもまだ、疑う人が多かった。
米軍の中には2013年頃から「米韓同盟はいずれ消滅する」と語る人が出ましたが、なかなか主流の見方にはならなかった。
しかしついに、「米韓同盟消滅」が米国の安保専門家の間で議論の前提となった。そのうえ、「韓国が北朝鮮と手を組んで民族の核を持つ」との見方が示され始めたのです。
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