評判の悪い中国製ワクチン 一方、「二流扱い」されてきたロシア製ワクチンは高評価

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 政府は2月14日、米製薬大手ファイザーの新型コロナウイルスワクチンの使用を正式承認した。日本で新型コロナウイルスワクチンが承認されたのは今回が初めてである。日本では17日から国立病院などの医療従事者に対して接種が開始されたが、世界では既に1億人以上の人がワクチン接種を受けている。

 ワクチン接種のおかげもあって、米国ではこのところ新型コロナウイルスの新規感染者が急減しているが、米疾病対策センター(CDC)は、変異株の感染が広がっていることから、気を緩めないよう国民に広く呼びかけている。

 英国の遺伝科学者は11日、ロンドン近郊のケントで確認された感染力の強い変異株について、「ワクチンはこれまでのところ効果を発揮しているものの、再び突然変異を始めており、ワクチンの効果を脅かす恐れがある」と警鐘を鳴らした。さらに「この変異株がいずれ世界を席巻する公算が大きく、新型コロナウイルスとの闘いは少なくとも10年は続く恐れがある」との暗い予測を示した。

 新型コロナウイルスの変異株に抗体の抵抗を回避できる能力が確認されたことで、ワクチン接種に関する戦略も変わってくることが予想される。できるだけ多くのワクチンを入手可能にして、変異自在のウイルスに対抗する必要があるからである。

 世界では、メッセンジャーRNAタイプの米ファイザーと米モデルナ、ウイルスベクタータイプの英アストラゼネカとロシアのスプートニクV、伝統的な製造法である不活化タイプの中国の2社などが提供するワクチンが利用されている。

 このうちメッセンジャーRNAタイプのワクチンの有効性(95%)の高さが話題になっているが、これとは対照的に評判が芳しくないのが中国製ワクチンである。その有効性が世界保健機関(WHO)が提示したワクチン使用の最低基準である50%程度に過ぎないことがわかってきたからである。

 これに焦った中国側は今年1月から「死亡例を意図的に軽視している」として欧米で開発されたワクチンに対する批判を強める一方、「中国製ワクチンはより安全で安価である」とのキャンペーンを繰り広げている。新型コロナウイルス感染の初期対応を巡る中国と欧米側の対立の構図が、ワクチン接種についても悪影響を及ぼしている。

 このような中国と欧米との間の対立を尻目に評価をじりじりと上げているのはロシア製ワクチンである。2月中旬の段階で、米ファイザー製ワクチンは35カ国に承認され、最も信頼性が高いとされているが、第2位の英アストラゼネカ製ワクチン(31カ国で承認)に次いで第3位にロシア製のスプートニクV(26カ国で承認)がランクインしている。

 スプートニクVは昨年8月ロシア政府が世界で初めて承認した新型コロナウイルスワクチンだが、第3段階の臨床試験を済ませていなかったことや「国内での接種希望者が少ない」との報道が相次ぎ、「二流扱い」されてきた。

 スプートニクVは、新型コロナウイルスのスパイク部分の遺伝子情報をアデノウイルスという風邪のウイルスの一種に運ばせ体内に抗体を作るワクチンである。このタイプのワクチンは運び屋であるアデノウイルスが風邪のウイルスなので、必然的に人間の体はこれに免疫反応を引き起こす。この反応が強くなると新型コロナウイルスのスパイク部分の遺伝子情報が体内に送り込めなくなるとの問題点が指摘されていたが、スプートニクVは2回目の接種の際には1回の接種とは異なるアデノウイルスを使用することでこの問題を解決した。臨床試験データの公開も積極的に進めたことで、同じアデノウイルスタイプでワクチンを製造するアストラゼネカがスプートニクVの優秀さを認め、昨年12月にロシア製を組み合わせたワクチンの臨床試験を実施することを明らかにした。

 2月2日に発売となった英科学誌「ランセット」によれば、スプートニクVの有効性は約92%とメッセンジャーRNAタイプと遜色のない有効性が確認されており、ブルームバーグは「スプートニクVは旧ソ連以来の最大の科学の結晶になった」と報じた。

 スプートニクVの日本での使用は今のところ予定されていないが、1961年に旧ソ連からポリオワクチンを緊急輸入し、国内のポリオ患者数を激減させたという前例がある。ロシア製ワクチンの使用を中期的な課題として検討すべきではないだろうか。

 新型コロナウイルスとの闘いが長期化することが予想される中、「ワクチン・プラス」の重要性が指摘され始めている。「ワクチン接種を過信することなく、マスク着用など日々の用心を怠ってはならない」との趣旨だが、新型コロナウイルスの発生から1年が経ち、様々な実態が明らかになってきている。

 最近、筆者が最も注目したのは、米タフツ大学の調査結果である。それによれば、公共の場にある物の表面を触れたことで新型コロナウイルスに感染する確率は0・05%以下であり、飛沫やエアロゾルを吸い込むことによる感染の確率と比べて格段に低いことが明らかになった。パンデミック以降、ドアノブやエレベーターのボタンなどに触ることを病的に恐れる人々が増加したが、「まずは換気や空気清浄、余力があれば消毒を」ということが科学的に初めて証明されたのである。ことさらにストレスを溜める生活を送っていると、ワクチンの効果を落とすことにもなる。

 肥満は自らにとっての重症化リスクであるとともに、他の人に感染を広げる「スーパースプレッダー」になる要因であるとの研究結果が出ている。メリハリの利いた対策を講じた上で自らの健康に留意することが、私たち一人一人が出来る長期戦に備えた対策なのではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮取材班編集

2021年2月22日掲載

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