人類の夢「不老」を可能にする仰天の発見! 老化細胞を除去する薬とは

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 どれほど食生活に気を配り、適度な運動を心掛けても、「老化」自体を避けることはできない。今年1月に発表されたのは、そんな常識を覆す衝撃的な研究結果だった。新薬を用いて老化細胞を除去する革新的な抗加齢療法は、人類を「不老」という夢に導くのか――。

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 人類は古来、「不老不死」という見果てぬ夢を追い求めてきた。秦の始皇帝は徐福に命じて長生不老の仙薬を探させ、「竹取物語」のかぐや姫も同様の薬を帝に残して天に帰ったとされる。

 無論、それらは人間の切なる願いを投影したフィクションに過ぎない。現実には、いかに科学が進歩を遂げようと「不死」を実現するのは至難の業だろう。

 しかし、「不老」については話が別のようである。現代の医学は老いの正体に迫り、それを克服しようとしているのだ。

「人間の寿命を120歳以上にすることはできません。しかし、人生の最期の瞬間まで元気に過ごせるよう、健康寿命を延ばす薬は作れるのではないか。今回の発見はその糸口になり得ると考えています」

 東京大学医科学研究所(癌防衛シグナル分野)の中西真教授はそう語る。

 中西教授をはじめ、東大、慶應大、九州大などからなる研究チームは今年1月15日、老いの概念を大きく変えるかもしれない論文を米・科学誌「サイエンス」に発表した。

 それによれば、

〈人間は加齢に伴って、動脈硬化や糖尿病といった疾患を引き起こす“老化細胞”を体内に蓄積していく。研究チームは、この老化細胞が生存するために不可欠な“GLS1”という遺伝子を特定。老齢のマウスにGLS1の働きを妨げる薬剤を投与したところ、老化細胞の大半が除去された〉

 中西教授は今後も研究を進め、5~10年後には臨床試験をスタートさせたいとしている。

 目下、日本の総人口のうち65歳以上の高齢者が占める割合は28・7%。2位のイタリア(23・3%)を大きく引き離し、ダントツの世界一である。そんな超高齢社会にあって、寝たきりや、病院のベッドでチューブに繋がれた状態ではなく、健康を伴ったまま「不老」をもたらす薬はまさに福音に他ならない。しかも、いま世界中を震撼させる新型コロナウイルスに至っては、高齢であること自体が重症化リスクに繋がってしまう。「不老」を望む声はより切実さを増している。

 とはいえ、人間はこの世に生まれ落ちた時から日々刻々と老いていくもの。にもかかわらず、老化を食い止めるとは一体どういうことなのか。

カギを握る「P53遺伝子」

 それを知るためにも、まずは、細胞の老化について中西教授に解説頂こう。

 そもそも、細胞は「分裂」、「休止」、「遺伝子を乗せたDNAの複製」という一連の周期を繰り返しながら増殖を続けていく。

 これが“細胞周期”だ。

「ただ、細胞は分裂を繰り返し、ある回数、人間の場合はおよそ50~60回を超えたところで分裂をやめてしまうのです。このように細胞が分裂寿命を迎えて正常な周期を外れ、不可逆的に増殖をストップさせることを“細胞老化”と呼びます。また、この分野の研究が進むにつれて、細胞老化は加齢だけではなく、がん遺伝子の活性化や酸化ストレス、DNAの損傷といったさまざまな要素によって誘導されることも判明しました。こちらは“ストレス性の細胞老化”と呼ぶことができます」

 専門家の間では、こうした細胞老化のプロセスや弊害は知られていた。

 だが、「細胞の老化はどのようにして進むのか」というメカニズムが解明されたのは、つい最近のことだという。

 その背景には、2000年代半ば以降に相次いだ技術革新がある。

 大量の遺伝子情報を短時間で読み解く「次世代シーケンサー」の登場や、実験動物に対する遺伝子操作技術の発展、さらに、理化学研究所の宮脇敦史氏が開発した、微細なタンパク質を可視化する「蛍光イメージング」技術――。

 研究環境が整ったことで、細胞老化に関しても、数多くの成果が報告されるようになった。

 そうした蓄積を経て、がんの抑制遺伝子である“P53遺伝子”が、細胞老化のカギを握っていることが分かってきた。

「これは“ゲノムの守護神”とされる遺伝子で、その名の通り、損傷したDNAの修復や細胞分裂の調整に携わっています。さらに、DNAの傷が修復できないほど深い場合には、細胞老化を促進させて排除するなど、まさに、正常な細胞を守る司令塔と呼ぶべき存在です。しかし、このP53遺伝子が特定の時期に活性化すると、細胞が増殖サイクルを外れて、老化が始まってしまうのです」

 中西教授らの研究グループは、“P53遺伝子”を人為的に活性化させ、純粋な老化細胞を作り出す培養法を独自に開発した。

「実は、組織や臓器によって老化細胞は性質が異なるため、どんなタイプの老化細胞にも効果的な薬剤はこれまで開発に至っていませんでした。その点、私たちが作製した純粋な老化細胞は、分裂寿命を迎えたものにも、ストレス性のものにも共通する特徴を有しています。そこで、この独自に作製した老化細胞が生存するにはどのような遺伝子が必要なのかを探ることにしました」

 要は、培養した老化細胞を用いて、その急所を見つけ出し、狙い撃ちにしようと考えたのだ。

 そして、度重なる実験の末に浮上したのが、冒頭で述べた“GLS1”という遺伝子だった。

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