ジャニーズも顔負け…キャンプ地を熱狂させた“超人気ルーキー列伝”

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「使った食器を洗いたい」

 ジャニーズのイケメンアイドルも顔負けの超人気者になったのが、75年に巨人入りした定岡正二である。前年夏、鹿児島実のエースとして甲子園で4強入りすると、甘いマスクから女性ファンの人気を集め、鹿児島市内観光のバスが定岡家の前に停まったという仰天エピソードまである。

 巨人入団後も、キャンプ地・宮崎の宿舎には「定岡さんの使った食器を洗いたい。給料は要らないから雇ってほしい」と志願する女子学生も現れ、初練習の日には1万5千人が来場。就任1年目の長嶋監督ですらも、報道陣が定岡の追っかけに回った結果、朝の散歩時に同行する記者がいなくなり、完全に主役の座を奪われてしまうほどだった。

 イケメン系とはやや趣が異なるが、99年に西武に入団した“平成の怪物”松坂大輔も高知・春野キャンプ初日に1万人を超えるファンが殺到し、“松坂現象”を巻き起こした。

 どこに行っても約100人近い報道陣やファンたちがゾロゾロついて回る過熱状態から松坂を守ろうと、首脳陣のアイデアで、“影武者”谷中真二に背番号18のユニホームを着せ、報道陣やファンと集団で追っかけっこを繰り広げている隙に、谷中になりすました松坂が脱出するという前代未聞の“陽動作戦”も行われた。

 バレンタインデーには所沢の球団事務所と併せて1200個のチョコレートが届けられたため、「無駄にはできません」という理由から、500個を高知市内の児童養護施設にプレゼントしている。

“荒木トンネル”を新設

 しかし、松坂の脱出作戦より遥かにスケールが大きい話題を提供したのが、83年にヤクルトに入団した荒木大輔である。

 早稲田実時代は、5季連続出場の甲子園で“大ちゃんフィーバー”を起こしたのは、ご存じのとおりだ。キャンプ地はアメリカのユマとあって、さほど大きな混乱はなかったが、さすがに帰国後は、そうはいかない。

 そこで、球団側はファン対策として、本拠地・神宮球場とクラブハウスをつなぐ約15メートルの地下通路“荒木トンネル”を新設した。選手の安全確保のために球団がわざわざトンネルをつくったのは、もちろん初の珍事である。

 歩いて1分足らずの短い時間ながら、登板直前の荒木は静かなトンネルの中で集中力を高め、「よし、やるぞ!」と充実した気持ちでマウンドに上がったという。それから37年後、この荒木トンネルは再び脚光を浴びることになる。コロナ禍が拡大するなか、3ヵ月遅れで開幕したペナントレースで、選手の移動の際にファンとの密状態を避けるため、トンネルが活用されることになったのだ。

 荒木の背番号11を受け継いだ奥川恭伸をはじめ、ほとんどの選手が、トンネルができたあとに生まれた世代。地下通路を歩きながら、チームの大先輩の超人気ぶりをまざまざと実感したことだろう。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年2月18日掲載

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