銀座クラブ「3議員」の謝罪はどこが間違っていたのか 危機管理のプロが解説
緊急事態宣言下で続出した与党議員の夜遊び。遊び方は与党内で一致していたものの、発覚後の謝罪には大きな差が出た。公明党の議員は潔く議員辞職したが、自民党の議員は嘘の弁明をした上に離党したのみ。このような違いが起きる原因と今後の影響について、危機管理の専門家3名に聞いてみた。
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まずは、今後の影響について――。
「言うまでもなく、議員本人および党への悪影響は公明党のほうが少ないでしょう」と分析するのは、(株)リスク・ヘッジの代表取締役でヘッドアナリストの田中優介氏だ。
「危機管理には、『感知・解析・解毒・再生』という4つのステージがあります。謝罪は、そのなかの“解毒”のために行うものです。自民党の松本純前国対委員長代理は、発覚後に嘘をついたことで、むしろ毒を増やしてしまった。さらに、公明党の遠山清彦前幹事長代理が議員辞職する一方で、松本氏は離党しただけでした。ここでも毒を十分に減らせていません。松本氏と行動を共にした自民党の議員二人(大塚高司氏、田野瀬太道氏)も離党のみ。国民は“いずれ復党するだけだろう”と感じたはずです。やはり、解毒の効果は薄かったと言わざるを得ません。そうなれば、次の段階である“再生”への道のりも険しくなる。この影響は選挙の結果に現れるでしょう」
それでは、彼らが“解毒”に失敗したのはなぜなのか。
「解毒には『反省・後悔・懺悔・贖罪』、という4つのステップを踏むことが大切です。弊社が約20年前から提唱している理論ですが、たとえ世界的な大企業であっても、このステップを飛ばしたり、前後させるという過ちが少なくありません。松本氏の場合は、反省と後悔をスキップしたせいで、いい加減な懺悔と、甘い贖罪の印象ばかりが残ってしまった。遠山氏も当初は、役職辞任で済まそうとしました。しかし、解毒の効果が薄いと感じて、議員辞職と次回立候補の断念という重い贖罪を申し出たのだと思います。支援団体の反発もあったのかも知れませんが」
一方、自民党議員の夜遊び問題を含め、このところ菅義偉総理が謝罪する姿も目立つが、
「正直なところ、決して上手な謝罪とは言えません。“禁句”を使っていますので」
そう指摘するのは、(株)リスク・ヘッジの取締役でシニアコンサルタントの田中辰巳氏だ。
「弊社では『遺憾、誤解、お騒がせし、知らなかった、まい進するのが責任』という5つの言葉を、謝罪の禁句と企業に申し上げてきました。頭の文字をつなげて、『イ・ゴ・オ・シ・マイ』と記憶してください、と。菅総理はこの禁句にある“誤解”と“遺憾”を使ってしまった。
昨年12月に、自身と含めた8人での会食が発覚した時、“国民の誤解を招くという意味においては真摯に反省しております”(12/16)と謝罪。また、松本氏らの離党が決まった時には、“誠に遺憾であり”(2/1)と陳謝しています。一見すると、問題のない謝罪に思えますが、そうではありません。“誤解”とは間違った理解をするという意味。すなわち相手側に責任の半分を押し付けているようなものなのです。また、端的に言えば、“遺憾”は“残念”を意味します。自民党の総裁が党所属議員の失態を“誠に残念”と、どこか他人事のように語っている。想像してみてください。奥さんに浮気の証拠を握られた亭主が、“誤解を与えて”とか“まことに遺憾でした”と言ったら、許してもらえるでしょうか?」
そこで、危機管理のプロの観点から、謝罪で失敗しないための秘訣を教えてもらおう。
「まず、個人が過ちを犯した場合に、やってはいけない謝罪は6種類あります。
(1)遅い謝罪:追い詰められてから仕方なく謝罪する→大塚高司議員、田野瀬太道議員
(2)時間足らずの謝罪:時間制限を設けて謝罪会見をする→秘書が略式起訴の安倍元総理
(3)あいまいにボカした謝罪:“誤解”や“お騒がせし”というピント外れ言葉で謝罪する
(4)言い訳や反論まじりの謝罪:8人会食の際に二階幹事長が発した「飯を食うためではない」
(5)嘘と隠ぺいまじりの謝罪:松本純前国対委員長代理の「一人で行った」
(6)贖罪のともなわない謝罪:起訴されても議員辞職しなかった河井克行夫妻
そして、企業の場合は、さらに4種類が加わります。
(1)役者不足の謝罪:経営トップが出ない謝罪会見
(2)足並みの乱れた謝罪:加害者側の企業が責任をなすりつけ合いながらの謝罪
(3)頭を下げる方向を間違えた謝罪:被害者よりも株主や取引先に重点を置く謝罪
(4)安易な賠償が先走る謝罪:事実や原因などを懺悔しないで賠償金を先に提示する謝罪
この10種類に該当しないかを見極めて行うのが謝罪の秘訣です」
そう聞くと、危機を回避する謝罪方法を実践するのは、かなり大変なように思える。だが、(株)リスク・ヘッジの取締役でチーフオブザーバーの橘茉莉氏によれば、
「当社では謝罪は決して難しいものではないと伝えています。平たく言えば、被害者の溜飲が下がれば良いのですから。そのためには、被害者が言いたいことを、こちらから先に言うのが鉄則です。あるいは、被害者が期待するよりも重い罰を、自ら提案するのも良いでしょう。大局的に見れば政治家や企業経営者の夜遊び自体にかなりの危険が伴う時代になりました。もし、社員に行動自粛を求めていた経営者の夜遊びが発覚したら、世論から大バッシングを浴びかねません。であれば、むしろ今のうちに“謝罪”の準備をしておくと良いのではないでしょうか。間違っても、“夜の街や女性の市場調査をするためだった”などという迷言を口にしないために」
【経歴】
株式会社リスク・ヘッジ
代表取締役 田中 優介(ヘッドアナリスト) 明治大学→セイコーウオッチ(株)→セイコーホールディングス(株)→(株)リスク・ヘッジ
取締役 田中 辰巳(シニアコンサルタント) 慶応大学→アイシン精機(株)→(株)リクルート→(株)ノエビア→(株)リスク・ヘッジ
取締役 橘 茉莉(チーフオブザーバー) 横浜国立大学→住友生命保険相互会社→(株)リスク・ヘッジ