抗体保有率、東京0.91%、大阪0.58%……欧米に比べ遥かに低い数字の読み方
2月5日、厚生労働省が昨年12月14日から25日にかけて行われた新型コロナウイルスの抗体保有検査の結果を発表した。東京0.91%(1万人あたり91人)、大阪0.58%、宮城0.14%、愛知0.54%、福岡0.19%――。1月上旬には連日2000人を超える感染者を出した東京都でさえ、抗体保有率(陽性率)が1%に満たなかったことに驚いた方も多いだろう。
「昨年6月に実施された同様の検査で、東京がわずか0.1%だったことと比較すれば、それだけ抗体を持った人が増えたとも言えますが、この数字から人口に占める感染者の割合は、まだまだ低いことがわかります」
と語るのは、国際医療福祉大学の松本哲哉教授(感染症学)だ。
「抗体検査の利点というのは、検査を行ったそのときだけ陽性だとわかるPCR検査や抗原検査と違って、過去に1度でも感染したことがあるかどうかを把握できること。抗体を保有している人、つまり免疫を持っている人の割合がわかれば、政治的な対策をどうとるべきか考えることができます。たとえば、ワクチン接種を積極的に行うか否かという判断にもつながります」
韓国0.09%、台湾0.07%
ワクチン接種が始まっている欧米では、アメリカが昨年11月の時点で抗体保有率は約14.5%、イギリス・ロンドンでは昨年5月にはすでに約17%というから、日本はかなり低いように見える。もっとも韓国は0.09%、台湾は0.07%と日本以上に低く、アジアにはやはり「ファクターX」が存在するのだろうか。
「アメリカは白人、黒人、黄色人種、ヒスパニックと多様な人種を抱えています。その中で黄色人種だけが感染していないというようなデータが出れば、ファクターXのひとつが人種だと言えますが、その報告は未だありません。また、白人も多いオーストラリアではあまり感染者が出ていない一方、感染を抑え込んだと思っていた日本や韓国は今また感染が拡大しています。ですから、人種差はおそらくないだろうと思われます」
幼児期に接種したBCGワクチンの効果や、SARSのような中国発祥のコロナウイルスへの免疫なども、アジア諸国が新型コロナの被害が少ない理由とも言われているが、
「確かに世界的に見れば、感染が広がっていない国や地域はBCGの接種率が高いというデータがあります。しかし、BCGによって明らかに感染率が変わったという研究結果は出ていません。
他のコロナウイルスに感染したので免疫があるというのも、残念ながら今回の抗体検査は、あくまで新型コロナに対してなので、まだわかりません。多少は重症化するリスクは減るとしても、抗体を持たない人は当然感染します。
それよりも、マスクの着用やソーシャルディスタンスといった行動面で抑制が効いているなど、国民性や生活様式、国が行う政策の方が感染に影響を及ぼしているのではないでしょうか。家に入るときに靴を脱ぐか、手を洗うのか、外出時にはマスクをするか。感染が広がっている地域の人たちはあまり手も洗いませんし、マスクも嫌がりますから、簡単に広がります。危機的な状況にある今も、みんながみんな同じ方向を向くかというと、そうではない。それに比べれば、日本人は呼びかければ協調して、ある程度のことはやってくれるので、感染が抑えられているのです。
先ほどお話ししたアメリカやオーストラリアも何が違うのかといえば、人種ではなく政策です。それを考えると、今のところファクターXは、やはり国民性や行動様式、政策と言うことができるでしょう」
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