霊視が売り物「シークエンスはやとも」の危うさ 宜保愛子、細木数子の失敗を忘れたか

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 シークエンスはやとも(29)というピン芸人をテレビ番組でよく見掛けるようになった。売り物は霊視。人に取り憑いている霊が見えるという。世にも稀な能力に恵まれた御仁というわけだが、それを放送することは日本民間放送連盟(民放連)の定めている放送基準に反する疑いがあるのではないか。

 毎日放送OBで同志社女子大学学芸学部メディア創造学科の影山貴彦教授はテレビが霊の存在や霊視を放送することを憂慮する。

「芸人であるシークエンスさんは自分の知名度を上げ、活躍の場を広げたいだけで、悪意はないのでしょうが、それを放送するとなると話は別です。霊視というものが取り上げられることにより、新たな不幸が生まれてしまう可能性があります。そのアクセルをメディアが踏んではなりません」(影山教授)

 いくら力が衰えたとはいえ、テレビは途方もない数の視聴者が見る。免許事業で公共性が強い。テレビが放送したことによって、その情報がオーソライズ(公認)されたものと受け止める人もいる。そのテレビが霊の存在や霊視を認めたら、霊感商法・霊視商法の類いで人々から金品を騙し取っている輩たちにとっては思うツボだろう。

 霊感商法・霊視商法において、騙す側は、「悪霊が憑いて次々に不幸なことがおこります」(警視庁ホームページより)などとささやき、被害者に近づく。騙すための第一歩は霊の存在を相手に信じさせることだ。

 そんなことはテレビマンたちだって知っているはず。それなのにここ約1年、シークエンスのテレビ出演が急増した。

「過去の歴史を振り返ってみれば分かりますが、社会不安が募ると、霊視のようなものがもてはやされます。今もコロナ禍なので、人々は非科学的なものにすがりたがっているのでしょう」(影山教授)

 シークエンスは昨年2月以降、「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系列)や「行列のできる法律相談所」(日本テレビ系列)などに次々と出演。ほかの出演者を霊視し、取り憑いている霊がどんなものであるかなどを解説している。

 これは倫理的に疑問視されるだけでなく、民放連が定めている放送基準に反する疑いがある。放送基準の8章「表現上の配慮」にはこうある。

<迷信は肯定的に取り扱わない><占い、運勢判断およびこれに類するものは、断定したり、無理に信じさせたりするような取り扱いはしない>。さらにシークエンスは「死神が憑いている」といった表現もするが、これは<人心に動揺や不安を与えるおそれのある内容のものは慎重に取り扱う>に触れる疑いがある。

 コロナ問題なども扱う情報バラエティー「アッコにおまかせ!」(TBS系列)の1月10日放送分では和田アキ子(70)や出川哲朗(56)を霊視。出川に対しても死神が憑いていると指摘し、「体調を崩したり、大きなケガが今年中にあってもおかしくない」と解説した。出川は笑っていたが、死神の存在を信じてしまい、不安をおぼえてしまう視聴者もいるのではないか。

 霊能者がテレビに登場することに一貫して反対する早稲田大学名誉教授の大槻義彦氏(84)はかつてこう唱えていた。

「そもそも霊能番組がいけない理由は三つあります。一つは、直接、もしくは間接的に霊感商法に結びついているからです。二つ目が、子供たちへの悪影響です。科学や数学、歴史などに真っ向から対立するばかりか、あの世で第二の人生があるなどと言うと、心の弱い子供は自殺をしてしまうかもしれない。最後が、公序良俗に反するからです。人生がすべて守護霊などによって決められているとなると、勉強や努力をやめて、退廃的になってしまいます」(週刊朝日2008年5月16日号)

過去にはBPOで審議も

 各番組の制作者はどこまで影響を考えながら霊や霊視を取り上げているのだろう。

 シークエンスは「アッコにおまかせ!」では視聴者へのアドバイスも行った。(1)初詣は空いている時に行くべき。「混んでいると神様に顔を覚えてもらえないから」(2)むやみにパワースポットへ行くな。「運が悪くない人が行くと(その場所に)溜まりに溜まった良くないものを受け取っちゃう」(3)アルコール消毒でなんとなく除霊も出来ちゃう「昔、日本人はお酒で清めていたじゃないですか」。

 こうなると、もはや霊や霊視がどうのこうのというレベルではない。神職にある人、神道を学んだ人には異論があるはず。民放連の放送基準以前の問題だろう。

 テレビは過去に失敗を繰り返し、慎重になっていたはずなのだが、どうやらその記憶が薄らいでいるらしい。制作者の世代交代が進んだせいもあるだろう。

 1970年代から90年代前半にかけては、守護霊の声が聞こえるとされた故・宜保愛子さんが日本テレビなどに出演し、人気者に。だが、一方で科学者や一部視聴者から猛批判された。

 それにとどまらない。1995年、オカルト的な教義によって数々の若者の道を誤らせたオウム真理教が摘発されると、非化学的な話を広めたテレビ界も糾弾され、宜保さんも第一線から姿を消した。

 2000年代に入ると、占術家の細木数子さん(82)とスピリチュアリストで霊視ができるという江原啓之さん(56)が台頭する。だが、2007年には江原さんが出演したフジテレビの「27時間テレビ」が物議を醸す。

 番組に招かれた一般女性が営む美容院が、経営難に陥っているという触れ込みだったものの、事実ではなかった。さらに江原さんが女性に投げ掛けた言葉が問題視された。女性の父親は亡くなっていたが…。

「お父さん、実は後ろにいらっしゃっているの」

 この番組は放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会で審議の対象になった。その中である委員はこう厳しく断じた。

「(江原発言は)虚偽以外の何ものでもない。(民放連の)放送番組基準の中にはこのようなものはやるべきではないという基準がはっきり書かれており、それに照らしたら、あの番組だけでなく、類似の番組も基本的におかしい」(2008年1月)

 このBPOの意見の公表を境に、占いや霊視を取り上げる番組は急減した。意見の公表から2カ月後の同年3月には細木さんが放送メディアへの出演の封印を宣言した。それまでの番組は民放連の放送基準に触れている疑いがありながら、グレーゾーン内でやっていたと考えて良い。

 あれから13年。当時、シークエンスの出演番組が存在したら、BPO委員から「類似の番組も基本的におかしい」と、咎められたはずだ。ほかにも民放連の放送基準が守られていないとしか思えない番組はある。

 せっかく自分たちで作ったルールなのだから、放送基準の再確認をしたほうが良いのではないか。

*週刊朝日2008年5月16日号

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年2月10日掲載

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