COCOAは「有害アプリ」という声も……厚労省が失敗した「ものすごく単純な理由」
COCOA=欠陥住宅
「船頭多くして船山に上る」という諺がある。COCOAは、この逆だったという。
井上氏は「開発の責任者である厚労省に、船頭になれる人が全くいなかったのです」と指摘する。
「例えば、EU委員会に勤務する職員は“欧州官僚”と呼ばれたりします。彼らのうち4割がアップルやマイクロソフトといったIT企業からの転職組というデータがあります。
アメリカでも似たような傾向があり、今やエリート官僚のキャリアにIT業界での実務経験が必須になったといっても過言ではありません。
一方、日本は全く状況が違います。『財務省に10人の新人キャリアが入省したが、そのうち4人がアップルやグーグル、マイクロソフトなどからの転職組』という話は聞きません」
厚労省に専門家がいないというなら、コンサルから助言を受け、開発会社に任せれば、アプリは完成するのではないか──と思う向きもあるだろう。だが、それでは上手くいかないことが圧倒的に多いという。
「住宅を建設する際、経験のない人が現場監督になったとします。部下にどう指示を出していいか分からないでしょう。
部下の作業員たちも『うちの監督は何も分かっていないから仕方ない』と手探りで作業することになります。
そんな状態で家を建てれば、欠陥住宅に決まっています。それと同じことがCOCOAでも起きたということです」(同・井上氏)
厚労省の理解不足
そもそもCOCOAの開発について、当初から関係者の間では、不安視する声が上がっていた。
「COCOAは当初、ボランティアのグループが企画し、自分たちの手で開発を行おうとしました。途中から厚労省が加わり、当初はバックアップだけを行うはずだったのです。
ところが、その後に自ら開発を行うことを決めました。COCOAの開発を民間企業に発注したのですが、ボランティアグループも引き続きプロジェクトに携わることになったのです。この時点で、開発スタッフの一体感が失われることになりました」(同・井上氏)
受注した民間企業とボランティアグループが密接なコミュニケーションを取れば、何も問題はなかったのかもしれない。
だが、COCOAの開発が進むにつれ、ボランティアグループや関心を持つITの専門家などから、システム設計の欠陥が指摘されたり、具体的なプログラムに疑問が投げかけられたりすることが増えていった。
「こうした声に、厚労省が耳を傾けたようには見えませんでした。その結果、IT業界では昨年末の時点で、COCOAは欠陥が多く、役に立たない“気休めアプリ”と言われていました」(同・井上氏)
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