史上最多ゴールデン・グラブ賞「福本豊」 「野球部に入るな」と言われた少年が起こした奇跡(小林信也)
“走”は五輪選手が伝授
走る技術は、東京五輪陸上400メートルリレー代表だった浅井浄(きよし)を抜きには語れない。阪急本社からブレーブスに出向し、トレーニングコーチになった浅井から見れば、福本の走りは隙だらけ、無駄だらけだった。
「脇を開けない、肘を左右に振らない、腕を真っすぐ振る。何度も繰り返し、練習させられました」
踏み出した一歩目から理想の前傾姿勢を作ることも大きなテーマだった。福本の代名詞でもある、斜め45度の前傾姿勢は浅井と福本が二人三脚で磨き上げた“盗塁王の核心”だった。
もうひとつ、相手投手の癖を見抜くことも福本の盗塁成功に欠かせなかった。
「8ミリで撮ってもらった投手の動きを見て気づいたんです。投手にはそれぞれリズムがある。1、2、3、数えると牽制か打者に投げるか、わかるようになった」
面食らったのは、南海の投手が野村監督の指示でクイックを始めた時だ。
「速すぎてスタートできない。最初はよく刺されました。でも、クイックで投げようとすると投手は必ずどこかに力が入る。それがわかったら、かえって走りやすくなりました」
癖も盗んだが、それ以上に全身で感じるリズムや感覚が福本の盗塁スタートを支えていた。
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