コロナ重症者増加で「医療用酸素が不足している」という話は本当か 業界団体に聞いた
海外では実例も
SNSで「コロナ禍で酸素ボンベが不足している」という書き込みが散見されるのをご存知だろうか。
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こうした事例は海外なら発生しており、大手メディアも取材している。ブラジルとインドについて報じた記事から、見出しだけをご紹介しよう。いずれも出典は電子版だ。
「インドのコロナ感染者500万人突破、医療用酸素不足の病院も」(ロイター:20年9月16日)
「ブラジル北部、酸素ボンベ不足の死亡相次ぐ 新型コロナ」(日本経済新聞:21年1月20日)
他にもイタリア、イエメン、チリのアマゾン地方などで、酸素ボンベが不足したと報じられた。
一方、Twitterを検索してみると、日本でも酸素ボンベが不足していると訴えるツイートが見つかる。
東京都でPCR検査のキットと酸素ボンベが不足しているというツイートがあった。医療用酸素の《確保は大丈夫でしょうか?》と問いかけるものもあった。
医療用酸素やボンベが《不足》しているとだけ書かれたものもある。
ある病院の医師もデイリー新潮の取材に対し、「実際にそういう話を耳にしました」と証言する。
「新型コロナの感染拡大で、医療用酸素や酸素ボンベが不足しており、特に重症者の多い病院では取り合いになっていると聞きました」
「由々しき問題」
そこで「一般社団法人日本産業・医療ガス協会」に取材を申し込んだ。この協会は産業用と医療用のガスに関し、生産や流通の改善、安全の確保などを目的に設立された業界団体である。現在、加盟している企業は約1000社にのぼるという。
担当者は「実は以前、ある新聞社からも同様の問い合わせがありました。こういう風聞が広がっているとすると、由々しき問題だと思います」と表情を曇らせた。
「大きな見取り図を示しますと、コロナ禍で経済は停滞していますから、多くの産業界で生産は減少しています。減産に伴い産業用酸素の需要も減少しています。同じように医療でも、感染を怖れた“手術控え”、“受診控え”、”在宅療法へのシフト”が起きており、その結果、医療用酸素の需要も減少しています。日本国内では酸素の在庫も、生産余力も、充分な状態なのです」
酸素は極低温にて空気を液化させ、精留分離する巨大なプラントにて製造される。その大部分は産業用だ。全体の1割も満たない量が医療用酸素である。
医療用酸素の生産・消費量は1年で約1億6000万立方メートル。数字だけだと何のことやら分からないが、東京ドーム132杯分という巨大な量になる。
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